第4話 歯車と緋色の空
——空が、赤い。
* * * * *
『何故私は殺されたの⁉︎贅沢をしたから?けれどお金があるって言うことは贅沢をし尽くしなさいと云う神のお告げなのではなくって?』朦朧とする意識の中、私は考えた。非道い。こんなのおかしいわ!何故?反乱?お金が無くて貧乏なのが悪い。
目が醒めた。処刑された筈なのに。
目を醒ました時、私は何故か、古びたドレスのような物が大量に入った桶の前に居た。「シェリル、寝てたのかい?不味いよ。大量に洗わないと、お給料入って来ないんだから。」
私が驚いていると、隣の見窄らしい女性、と呼ぶ必要も無いような女が話しかけてきた。「どちら様かしら。この汚い布を私に洗えって言うの?こんなのメイドにやらせればいいじゃない。それと、シェリルって誰ですの⁉︎」
すると、女性は呆れた顔で言った。
「はぁ・・・シェリル、どうしたのさ。記憶喪失でもしたかい?メイドなんてお貴族様んとこにしか居ないよ。あ、シェリルってあんたの事だよ。」
「私に働けって仰るの⁈馬鹿おっしゃい‼︎有り得ませんわ!私は公爵令嬢よ‼︎仕事なんて云う卑しい者がやる事、そんなの出来る筈無くってよ‼︎」
「いい加減にしな!シェリル、あんた傲慢だよ。卑しい身分?それはあんただってそうじゃないか。親友だから言うよ。そりゃあアタシだって、あの悪女で有名な、処刑されちゃったシュヴァルツベルクのお嬢様みたいに贅沢してみたかったし良いお身分に生まれたかったよ。でも仕方ないんだよ!けど身分は変えられない。夢を見るのは無駄なのさ。それと、あんたアタシのこと覚えてるかい?一応名乗っとくけどアタシはドロシア。で、あんたはシェリル。」
そんなの嘘だ。私がこんな卑しい服を着て仕事をしなければいけないなんて、そんなの可笑しい。
「ふふっ・・・笑わせてくれるじゃないの。馬鹿馬鹿しい夢でしてよ。私、なんて夢を見ているのかしら。」
私は自嘲した。
「そう・・・私は蘇った訳では無かったようね。憑依かしら。」
本当はこの憑依も前世の処刑も夢だと思い込みたかった。
「——シュヴァルツベルク公爵家はどうなったの?」
それなら公爵家滅亡の方がまだましだ。
「ああ、クラウディオが公爵家を継いだじゃないか。ほら、8歳まで此処に居た3つ下の男の子。」
「ああ・・・やはりそうなのね・・・シュヴァルツベルクの血が汚されたわ。」
私は貧民街の平民なんて生きている価値のないものと思っていた。
だが、その私の家系、それもシュヴァルツベルク公爵家ともあろう家が卑しい平民の男によって簡単に、清く気高い血を汚されてしまったのだ。そして、そんな事は唯一の貴族の血だけを実子に継いで来た清らかな一族にはあってはならない事だった。
「シェリル、あんた風邪でもひいたのかい?ま、今日は休みな。あんたの仕事もアタシがやっといたげるよ。あ、これ貸しだかんね‼︎」「・・・有難う。」
ああ、私が求めていた物はこれだ。思えば誰かにお礼を言った事は殆ど無かったかも知れない。
何故なら公爵家の一人娘である私が大切にされ、優しくされるのは"当たり前"だからだ。
"当たり前"にわざわざ感謝する事なんてない。何せ"当たり前"なのだから。
それから私はドロシアと親しくなり、お互いが辛い時は助け合うまでになった。
「クラウディオが公爵家当主になってから平和にはなったねえ。けどやっぱりコンスタンツェ様が生前に贅沢をし過ぎたせいで領民に支払う分のお金まで無くなってアタシ達の生活費がね・・・ところであんたさ、食糧とか衣服はあるかい?無いなら服は駄目でも食糧が親戚から送られてきたからあんたにも分けられるよ?」
「有難う、まだ少し食糧は残ってるわ。気持ちだけ頂いておくわね。」
本当は食糧は殆ど無いが、優しい彼女に頼る訳にはいかない。
「そんなこと言って。あんた本当は食糧無いんだろ?遠慮は要らないよ。それにアタシに嘘はつけないよ。」
「そうね。ならお願いするわ。本当に有難う。」
いつしか私は彼女に対して素直になれていた。少なくとも自分はそう思った。
そんな矢先、ドロシアが亡くなった。
——腐った料理を誤って食べてしまったのだ。
つまり、食中毒。公爵家ではそんな事あり得なかったのに
——私が贅沢の限りを尽くした為にシュヴァルツベルク領は整備されていなかった所為だ。
しかし、私には彼女を失った哀しみに浸っている時間は無かった。
兎に角飢餓が酷いのだ。
「ふふふっ、これが自業自得って言うのね・・・それも多量の罪無き命を巻き込んだ。今回も短い命だったわ。」
そして私は2度目の人生を終えた。
* * * * *
「懐かしいわ・・・夢よね」
そこで私は目を覚ました。其処は見慣れた豪奢な部屋だった。
しかし、一つだけいつもと違う事がある。隣に心地の良い暖かさがある。
「きゃああっ⁉︎」
しかし、今の状況を理解してしまった私は思わず悲鳴を上げた。何故なら、その正体であるクラウディオと抱き合う様な形になっていたからである。どうにか離れようとしてみたが、体をよじっても彼からは逃れられなかった。すると、私の悲鳴によって起きたのか、クラウディオも目を醒ました。
「・・・んえ?なっ⁉︎いや、本当に違うの‼︎これは、そのっ・・・寝相が・・・勝手にこうなってた‼︎」
「そ、そう‼︎お互いの寝相が可笑しすぎてこうなっただけよね‼︎きっと。そうよ!そう信じましょう‼︎」
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