第23話 真似

 「我に供物を捧げよ」

と田中が椅子に座って足を組んで言ってみる。


「ちょっと違うな」と私が言う。


「じゃあやってみろよ」

と田中に言われて私は田中と位置を交代して椅子に座る。


「我に供物を捧げよ」

と私になりに堂々とした威圧感で言ってみる。


「いいんじゃない。少し偉そうな感じ出てたよ」


「偉そう?威圧感は?」


「威圧感はないよ。なんか偉そうで嫌な感じ」


「嫌なんだ。じゃあ全然似てないじゃん」


「鼻につく」


「それはまずいね。すぐやめるわ」


「ツーンとする」


「鼻にわさびついてるね。それはもう真似関係ないね」

と放課の間、魔王の真似をして遊んでいた。


 ここ最近、魔王はやってこない。供物のこともあまり考えなくなった。

噂では他の教室にいる前田というやつが魔王のことを熱心に調べているらしい。魔王に触れたとか、魔王になったことがあるとかそんなことを言っていた。


「前田ってやつがさ。魔王になったことがあるらしいよ」

と田中が言う。


「らしいね。今ちょうどそのことを考えてた」


「前田ならもっと上手く魔王の真似できるんじゃない?」


「できるかなぁ」


「行ってみようぜ」

と田中が言うので前田のいる教室まで行ってみた。廊下から教室の中を覗く。


「あれが前田か?」


「いや、よく分からないんだよね」


「俺、声をかけてみるわ」

と田中が声をかけにいく。

前田っぽい人に田中が声をかけている。前田は急に話しかけられて戸惑っている感じだ。身振り手振りで説明している田中がよく見える。前田はあまり納得した顔ではないが田中と一緒にこちらに戻って来た。


「前田くんでーす」

と田中が紹介する。


「あぁ。どうも私です」

と私が名乗る。


「どうも前田です」


「ここじゃあれだから場所を移動しますか?」

と田中が言い、屋上へ移動した。今日は少し風が強い。


「本題に入ります。俺たちは魔王の真似がすごく上手くなりたい」

と田中が堂々と言ったが真似をするというベクトルがいつのまにか大きくなっていた。


「真似?」と前田が返す。


「そう。魔王のモノマネができるようになりたいのだ。俺たちの教室には時折り魔王がやってくるのは知っていると思うが、その魔王を間近で見ているからこそ。魔王のモノマネができれば俺たちの教室では人気者になること間違いない。だから俺たちは魔王のモノマネを体得したい。そこで一度、魔王に触れたことがあり、魔王になったことがあるという前田くんを召喚したというわけだ」


「召喚されたんですね。僕は」


「そう。魔法陣なしでね」


「凄いですね」


「凄いだろ」

と田中が言う。田中と前田の会話はたまに論点がズレる。


「前田くんは本当に魔王に触れたことがあるの?」

と私が訊く。


「あぁ。あるよ。誰も信じてはくれないけど」


「いつ触れたの?」


「一昨日」と前田が言う。

思ったよりタイムリーだった。だが一昨日は魔王は現れていない。


「一昨日って魔王出て来てないぞ。俺らの教室以外で出てくるのか?」

と田中が言う。


「君らの教室で君らの前で魔王に触れているし、その時僕は魔王だったんだ」

と前田は言った。

その時の前田の顔はものすごく真剣だったが目の奥はどうせ誰も信じてくれないのだろうとでもいうように目に光がなかった。


「それは、一体どういう」

と私が言いかけた時、チャイムが鳴り響いた。


「授業が始まる」

と前田はその場から離れようとした。


「ちょっと待て。魔王だったということはどういうことだよ」

と田中が言う。


「そのままの意味だよ。僕は魔王だった。朝起きたら魔王だったんだ。一昨日は。それで今日は違う。それだけだ」

と言い、前田は屋上から出て行った。


「俺らも戻るか」

と田中が言う。私はうなづき、田中と共に教室戻った。

そのあとも前田のあの言葉が頭の中に残り、それを考えていたらもう給食の時間だった。


「今日もたぶん来ないから気にしなくてもいいと思う。ただ、突然来る時もあるだろうから完全には気を抜かないように」

と担任が言う。一度普通に過ごしすぎてドタバタしたことがあったからだ。魔王がいつ来るは誰も予想できないので給食中は常に薄く気を張っていないといけないのが疲れる。


「前田くんなら分かるのかな」

と私はふと思ったことを口に出していた。

魔王になったことがある前田くんならいつ魔王が来るのか分かるのかもしれないと思い田中にそれを話した。


「まぁたしかに。前田のあの話が本当なら分かるかもしれないな」


「いつ来るのか分かるようになれば少しは気楽に給食が食べられるよね」


「たしかにな」


「前田くんに訊いてみよう」

と私は田中と前田のいる教室に向かった。


「前田なら早退しましたよ」

と前田と同じの教室の子が答えた。


「前田に何かありました?」

とその子が続ける。

その子は前田とは仲が良いらしく名前は花見という。前田から訊いた魔王の話を色々と話すと


「とりあえずそっとしてあげてください」

と花見に言われた。


 帰り道、田中と一緒に帰る。


「どういうことなんだろうな。前田のやつ」

と田中が言う。


「分かんないよ。魔王になってたってどういうことなんだろう」


「夢でもなさそうだしな」


「でも、前田が魔王だったなら今の魔王はなんなんだろう」


「魔王なんじゃない?」


「魔王かな」


「魔王でしょ。魔王の中身までは知らない俺たちからしたら魔王であるという認識は見た目しかないのだから仮に前田がまた魔王の中にいたとしてもそれはもう魔王でしかないんだよ」


「そうか。魔王の中身までは分からないもんね」



 前田は部屋でカレンダーに丸をつけていた。

床に転がっている給食の献立にも丸がつけてある。その日付とカレンダーで印をつけてある日付は同じでその日はフルーツポンチが出る日だった。前田ベットに寝転んで天井を見ていた。


「もし、この日に出てくるならアイツはフルーツポンチを狙いにこちらに来ていることになる。その時にアイツに確認する。入れ替わっていたかどうかを。あの日入れ替わってことを知るのは僕とアイツしかいないのだから」



 勇者の家のテレビで色々な番組を観ている魔王。


「もうそろそろ帰ってもらえないですか」

と勇者が言う。


「いや、このテレビは凄いな。何か色々なチャンネルがあるな」


「普通だと思いますよ。あなたはいつもあの洞窟で何やっているんですか?」


「椅子に座って威圧したり、本を読んだり、あとは洞窟にある鉱石の数を数えたりしている」


「退屈そう」


「失礼な!退屈ではない」

と魔王が言うと盛大にくしゃみをした。


そのくしゃみは物凄い突風でテレビを吹き飛ばし、壁に穴をあけた。

魔王はその現状を横目で見たあとゆっくりと立ち上がった。


「すまん。邪魔したな。もう帰るわ」

と魔王が言う。


「それはダメ」

と勇者は剣を抜いていた。


「ですよねー」

と魔王は言った。


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