第22話 停電
魔王様が帰ってこなかった。
こんなことは今まで一度たりともなかった。
魔王様は必ずどこに出かけても帰ってきていた。いつもそんな魔王様を出迎えることが私の役目だったのに夜が明けても魔王様が帰ってこない。これは異常事態だ。
などと考え、巨人の怪物がおどおどしている。
側から見たら魔王様が心配なのか、自分のルーティンが出来ないことがハラハラするのかどちらかは分からない。
「ここ真っ暗じゃん。これどうなってるの?」
とコウモリの怪物が来た。
「暗いのはこの洞窟の電気が停電したからだ」
と巨人が答える。
「大丈夫なの?他の人たち見えてんの?」
「見えてないと思う。でもコウモリも見えないだろ」
「俺は見えるよ。超音波あるから」
「その音波ってやつがあると見えるの?」
「見えるよ」
「じゃあ貸して」
「貸せないよ。道具じゃないから」
「そうか」
と言いながら巨人はまだおどおどしていた。
「どうしたの?」
「魔王様が帰って来なかったんだよ」
「どういうこと?」
「昨日出かけたまま帰って来なかったんだよ」
「いいでしょ。別に」
「ダメだろ。魔王様だよ。いつも必ず帰ってきてた魔王様が帰って来ないのはおかしいでしょ。絶対なんかあったんだよ」
「何があるんだよ」
「誘拐?それか病気?怪我?」
「魔王様ってこのセカイで1番強いんだろ?」
「そうだよ。魔王様は無敵だよ」
「なら大丈夫だろ」
「電話したほうがいいかな?」
「魔王様は電話を持ってるの?」
「持ってない」
「じゃあなんで電話の話を出した」
「どうしよう」
「見に行けばいいじゃん」
「実を言うと魔王様がどこに行ってるのか知らないんだ」
「知らないの!?」
「そう。知らないんだ。魔王様はいつも黒い渦に吸い込まれていってまた黒い渦から戻ってくるんだ。いつもどこに行くか知らないし、教えてはくれない」
「じゃあどうしようもないじゃん」
「だよな。あーあ。縛りつけておけばよかったな」
「そうなる?ちょっとその考えはまずいぞ」
「考えが美味しい時なんてあるの?」
「そのまずいじゃない。その考え方はあまり良くないって意味だよ」
とうだうだ会話をしていると暗闇の洞窟がぼんやりと光った。そのあと火の玉のようにゆらゆらとこちらに来る。
炎の魔神がやってきた。
「ここは真っ暗だな。大丈夫か?」
と炎の魔神が言う。
「あぁ停電したんだ」
と巨人が答える。
「復旧しなくていいのか?」
「今はそれどころじゃないの」
とコウモリが言う。
巨人は突然ハッとした顔して閃いたように言った。
「変な男に連れて行かれたんだ」
「彼女か。おい。魔王様はあの感じだぞ。あの感じのあの威圧感で誰が部屋に連れ込むんだ。何の心配だ。なんなんだよ。おい」
とコウモリが巨人に言う。
「連絡すればいいだろ」
と炎の魔神が言う。
「それが連絡手段はないんだよ。本当に次はなんか連絡できるもの持たせておけよ」
とコウモリが言う。
「魔王様ー!!」
と巨人は突然大きな声を出した。
洞窟の中の瓦礫などが声の振動で少し落ちた音がした。
「大きな声を出しすぎだろ。びっくりするわ」
と炎の魔神が言う。
「とりあえず停電をどうにかしよう。みんな困ってるし。魔王様探しはそれからだろ。ここの電力はどうなってる?」
とコウモリが言う。
「ここの電力はこの洞窟の外に大きなバッテリーがあってそれで発電している。エネルギーは昼間の光をエネルギーとして蓄積してそれを電力に変換している。とにかく実物を見に行こう」
と巨人がバッテリーのところまで2人を案内した。向かう道中、真っ暗な洞窟で巨人だけ何回か頭をぶつけたり足をぶつけたりしていた。
「これだ」
と巨人が指差すところに大きな芋虫みたいのがいた。
「あの生物がバッテリーか?」
と炎の魔神が言う。
「違うだろ。あれは“電獣”だろ。あれが原因か」
とコウモリが言う。
電獣とはこのセカイに住む怪物。
主食は電気。身体の大きさから自然界の頂点であり、力とスピードも持っている。
電獣を見たら手を出すな逃げろというのがこのセカイの暗黙のルールである。
「電獣を見たら?」
とコウモリが言う。
「手を出すな逃げろ」
とあとの2人が声を揃えて言う。
炎の魔神が全身を震わせて巨大になった炎を電獣にぶつける。大きな声を出す電獣。
こちらに身体を向けて食べていた電気を圧縮して光線のように放ってきた。それを巨人がその辺りの大きな岩を持ち上げて防ぐ。コウモリが肺にものすごく空気を溜めて超音波を放った。電獣はのけぞり倒れそうになったところへ炎の魔神が炎の球となって突進。激突して電獣が倒れたところにすごく高く飛んだ巨人が拳を下ろす。
電獣は沈黙した。
「俺たちってさ。案外、強いんだよな。そういえば」
と炎の魔神が言う。
「案外は余分でしょ」
とコウモリが言う。
「久しぶりに動いたから身体が痛いなぁ」
と巨人が肩を回しながら答える。
洞窟に電気が付いた。それを見て3人はハイタッチをした。それから3人でうだうだ言いながらだらだらと洞窟へ戻っていった。
魔王は勇者の家で朝を迎えていた。
朝から軽いストレッチをしてヨガをしていた。魔王は意外と健康志向である。
時間が余ったので冷蔵庫を開けて入っているものでサラダなど朝ごはんを作った。
朝ごはんを食べていると勇者が起きてきた。
「朝早くないですか?」
と勇者が言う。
「早くはない。普通だ」
と魔王が言う。
「こんな栄養がありそうな朝ごはん久しぶりです。凄いですね」
「そうか」
と言いながら魔王は恥ずかしかった。
勇者が朝ごはんを一口食べる。
「ど、どうだ?」
と魔王は待てずに聞いてしまった。
「美味いです。朝食ありがとうございます」
という勇者の言葉に嬉しいと照れるという感情が出てきてしまいそれが顔に出てしまった。
「うっ」
と勇者はその魔王を顔を見て瀕死になるほどのダメージを負った。倒れ込む勇者。
「大丈夫か」
と魔王が駆け寄ると少ししてすぐに立ち上がった。
「大丈夫です。ありがとうございます。もう回復してますので大丈夫です」
と勇者は言いながら魔王を指差し
「あの顔はもう2度としないでください」
と念押しされた。
魔王はどういう顔なのか自分では見れないので
これからは顔の表情を変えないように心がけようと思った。
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