第18話 白い天井

 気づいたら魔王は天井を見上げていた。

白い天井。

よく見るとどうやらベットに寝そべっているようだ。

周りをよく見渡すと誰かの部屋にいるようだ。


「もう起きなさいよ」


と下の階から声が聞こえる。

階段を上がってくる音がする。

ドアが勢いよく開いた。


「いつまで寝てるの。遅刻するよ」


と知らない人間が声を荒げている。

見つかったらまずいと必死に布団で体を隠したがその布団は剥がされてしまった。


「ほら、早く着替える。着替えたら下に来て。

ご飯食べたら早く学校に行くのよ」


と言い放ってその人間は部屋から出てまた下に降りていった。


【我を見て何も思わなかったのか。こんな見た目の我を?】

と思って腕をよく見ると人間のような腕になっていた。


【これはどういうことだ!?】

と早く自分の姿が確認したくてバタバタとベットから降りて鏡らしきものを探す。


「早く降りて来なさいよ」


と下からまた声がする。


「分かっておる。すぐ降りる」


ととりあえず返事を返した。


鏡らしきものを探したが見当たらないのでとりあえず下に降りることにした。

階段を降りると何か美味しそうな匂いがしたのでそちらの方へ向かう。

ドアが開いており、中に入ると机には食事が並べてあった。


「ほら、早く座る。食べたらすぐ学校行くのよ。

お母さんは今日仕事だから」


と先ほどの人間がばたばたと動きながら喋っている。その動きの中で突然、我を見て止まった。


「まだ着替えてないの?何やってんのあんた。

とりあえず顔を洗ってらっしゃい」


と腕を引っ張られ水が出そうな場所に連れて行かれた。

そこには鏡がありその鏡には人間が映っていた。

頬っぺたなどを触ったりつねったりすると鏡の中の人間が動く。


「もしかしてこれは我か?」


と驚いて声を発して顔などをベタベタと触った。


「早く顔を洗ってこっちに来な」


と先ほど母親だと言っていた人間が我を呼ぶ。

とりあえず顔を洗ってからだとサッとそれっぽいところをひねり水を出して顔を洗い先ほどの机に戻った。


「早くご飯食べちゃいなさい」

と言われるのでそれっぽく食べる。味は美味い。


「あんた、そんな箸使えなかったっけ?」

と母親という人間に言われる。


「我はもうちょっと使えていたのか?」


「その我って何よ。ゲームのやりすぎじゃないの?とりあえずそこに服出しておいたから食べたら着替えてランドセル背負って学校に行くのよ。今日は母さんは先に行くからね。鍵はここね。頼むね。いってきまーす」

とバタバタと母親という人間は出ていった。


「この状況はなんなんだ」

と言葉を出しながら必死に昨日のことを考えた。


 昨日は穀物をもらってそれって供物じゃなくて穀物じゃーんってツッコミしてそれから普通に

就寝したが何か間違えたのか?ところでここはどこなんだ。

とりあえず埒が開かないので先ほど母親という人間が言っていた鍵を持ってランドセル背負って学校というところへ行ってみようということで魔王はランドセルを背負って家の鍵をかけて外に出た。道まで歩いたがどこにその学校とやらがあるかは分からなくなった。

道がわからないので家の前でキョロキョロしていると


「前田くん」


と声が聞こえた。

声のする方を見ると女の子がいた。


「遅刻しちゃうよ。一緒に行こうよ」


「う、うん」


このよく分からない小さな人間の女の子に連れられるままに歩いた。

歩く道中話を聞いているとどうやら我が変身しているこの姿は“前田”というらしい。

この女の子は“花見”という名前らしい。


「花見は今日は遅刻したのか?」

と会話をしようと話しかけると少し花見の顔が赤らんだ気がした。


「前田くんいつもそんな風に呼び捨てなんてしないじゃん」


「ダメだったか?」


「ま、まぁいいけど。私も前田って呼ぶから」


「我は全然構わぬが」


「その我って何?時代劇の真似?」


「時代劇とは?」


と返していると遠くの方から

「おーい。早くしろよ。チャイムなるぞー」

と聞こえる。


「まずいかも。前田も走って」

と言いながら花見は走った。そのあとに我も着いていく。

この身体は花見よりも足が速いらしく花見を置いていきそうになったので手をとって引っ張った。魔王は気づいていないがまた花見の顔が赤らんだ気がした。

なんとか門みたいなものをくぐると

“キーンコーンカーンコーン”

と聞いたことのない音が響いた。


「お前らギリギリだぞ。早く教室に行け」


と少し大きな人間に話しかけられた。

花見が「はーい」と適当に返事をしているのを

見て我も同じトーンで「はーい」と言っておいた。


 今履いてる靴を履き替える場所に来た。

花見が履き替えているので間違いないだろう。


「じゃあ前田またあとでね」

と花見は走っていった。

何故か手を振っていたので我も同じように振り返した。


花見がいなくなったので我がいく場所が分からなくなった。この学校という大きな場所で我が行くべきところがあるのだろうかとか考えながらふらふらと歩いていると「前田くん」と声かけられた。


「あなたはこのクラスでしょ」

と少し大きな女性の人間に部屋の中に呼ばれた。

部屋の中に入ると他の人間は座っていた。周りを見渡すと座る場所が一つだけ空いていたのでそこに向かって歩いて座った。


「皆さん、おはようございます。今日はこんなスケジュールです」

と先ほど我をここに呼んだ女性の人間が喋っている。ここが学校ということならたぶん“先生”ということになるだろう。


一限目


二限目


三限目


と淡々とこなし、なんとなくこういう感じかと掴めてきた。


「前田、今日は面白いよ。なんか変わった?」

とこの身体の持ち主の前田の友達なのかはよく分からないがこの男の子はよく話しかけてくる。


「我が面白い?」


「その我ってのも面白い。何?時代劇?」


「時代劇ってなんだ?そういえば花見もそんなこと言っていたな」

などとくだらない会話も流れ、授業も色々と終わりお昼の時間になった。

皆が机の配置を変え出した。食事のようなものが並びはじめた。


「これは何の時間だ?」

とよく話しかけてくるやつに話しかける。


「給食だよ」


「給食があるのか?これはありがたい。今日のメニューは?」


「あそこに献立が貼ってあるから見て来なよ」

と言われて献立を見に行くとどこかで見たことあるような献立表だった。


“ピンポン、ピンポン”


とどこからか音が鳴った。


「前田、上の階行こうぜ」


「え、何があるの?」


「魔王が出て来たんだよ」


「え?魔王?」


「そう。あのピンポン、ピンポンって合図が魔王登場の合図なんだ」


「ここにいるぞ」


「どこに?」


「ここ。ここだ」


「いや、お前は前田だろ。面白くなったな本当に」


そういえばたしかに今、我は前田だった。

でも、それより魔王が上にいる?ということは

我の身体の中身が前田ということになるのか?

どういうことなんだ。

これは確かめるしかないと魔王は友達かよく分からないやつと一緒に階段を駆け上がっていった。


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