第14話 行列
魔王は魔法の鏡に尋ねていた。
「鏡よ鏡。お願いだ。給食の献立を映し出せ」
と言うといつものように給食の献立が映し出されて、いつフルーツポンチが用意される日なのかをチェックし、その日に合わせて人間界に行く。
といういつもの流れだった。だが、今回映し出されたのは黄色い生地の中にバナナとチョコとクリームが巻かれたものが映し出された。
「失礼致しました」
と魔法の鏡が即座に画面を切り替えた。
「なんだ、あれは」
「あれは、クレープと言います」
「クレープ?」
「はい」
「何故、我に映し出した?」
「魔王様に相応しい物を提供したいと考えていたらクレープが映し出されてしまいました」
「ん?ということはフルーツポンチよりもこのクレープというやつの方が我に向いているということか?」
「どちらが上ということはないのでどちらも魔王様に相応しい物でございます」
「そうか。では我はクレープを食べたい。どこにあるんだ」
と魔法の鏡に場所を聞いて魔王は人間界に行く準備をした。
「今回は椅子は持っていけません」
と鏡が言う。
「何故だ」
「列に並ばないと買えないからです」
「その食べ物はそんなに人気なのか!?」
「そうです。だから準備もしっかりしてください」
と言われたが魔王は何を準備していいのか分からずそのまま格好で行こうとした。
「水筒は持ちました?」
「いや、持ってない」
「まだ暑いので、並んでいる時に喉が渇きます。そしたらどうしますか?」
「近くのコンビニに買いに行くよ」
「ダメです。その間にせっかく並んだ列を抜かされます」
「え、我は魔王なのに?」
「列の前では皆平等です」
「そんな馬鹿な」
魔王は驚きを隠せなかったが水筒を準備した。水筒に紐をつけて斜めにかける。これで準備はできた。
「待ってください」
「次はなんだ」
「携帯用扇風機は持ちましたか?」
「え、いるのか?」
「暑いですからね」
「でも、あれそんなに風来ないぞ。意味あるのか?」
「無いよりはマシです」
「そうなのか?」
「魔王様の角みたいなもんです。無くてもいいけどあった方が威厳が出るでしょ」
「あ、ま、まぁ」
と魔王は少し落ち込んだが扇風機も準備した。
「もう行くぞ」
「あ、あとは帽子」
「帽子はいらんよ。いつも被らんし」
「頭は守ったほうがいいんですよ。さぁ被って」
と鏡に言われ、魔王は渋々帽子を被った。
大きな麦わら帽子にツノを貫通させて被った。
「じゃあ行ってくる」
「気をつけて」
と魔王は時空の穴に消えた。
そのあと巨人がやって来た。
「魔王様はお出かけか。あれ?魔王様椅子は?」
「今日は置いていかれてます」
「そうなのか。でも何故?いつも持っていかれるのに」
「今日は並ばないといけないので」
「魔王様が並ぶ!?それはよほどのところへ行ったのだな」
と巨人が思い描く魔王像とは真逆のところに魔王はいた。
魔王の前にはかなりの行列があった。
最後尾を探すとどんどん離れていく。
かなり離れたところで看板を持っている人を見つけた。看板には【最後尾】と書いてある。そこに魔王は並んだ。
そこからじわじわと前に進んでいく。魔法の鏡の言ったとおり喉が渇いている時に水分補給できる水筒は最高だし、この微力な風を出す扇風機も活躍していた。
少しクレープを売っているところが見えてきた。周りの会話に耳を澄ませると色々な種類のクレープがあるらしくそれを聞いているとすごく悩んできた。
「これどうぞ。見ておいてください」
と店員らしき人がメニュー表を渡してきた。
メニューはたくさんのトッピングが書いてあり
バリエーション豊富だ。だが、我はあの鏡で見たやつと決めている。それを期待して並んでいるのだ。
徐々にお店に近づいている。ようやくだ。
だが、それと共に尿意もやってきた。これは計算外だ。鏡もここまでの提案はしてくれなかった。結構ちゃんと尿意がやってきている。水筒の水を飲みすぎたのが原因だろう。尿意が先か、注文が先か。
魔王は店の受付にいた。
「いらっしゃいませ。どうしますか?」
「チョコ、バナナ、クリームやつをくれ」
と言ったが尿意を我慢しているのでまぁまぁ威圧感を放って注文してしまった。
店員はそれを感じ、ハッとした顔して手を振るわせながらクレープを作った。
「お待たせ致しました」
と明らかに震えた手でクレープを渡してくる。
魔王はクレープを受け取りお金を置く。
「お金は受け取れないです。大丈夫です」
と店員がお金を返して来た。魔王の威圧感のせいだろう。
魔王は無理矢理お金を置いて、釣りはもらわずその場を離れた。クレープを手に持ち急いで近場のトイレへ向かった。
ギリギリ間に合ったトイレ。魔王の尿の勢いは凄まじくトイレを砕いてしまった。
幸いなことに周りに誰もいなかったので魔法で修繕した。
近くの公園のベンチに座り、クレープをいただく。ひとかじりして分かる。チョコとバナナのハーモニーにクリームが絡む。
最高であった。これでもうフルーツポンチは食べなくてもいいとさえ思ったがこのレベルの感動がまた味わえるのなら食べたいとよりフルーツポンチへの期待が高まった。
魔王の洞窟へ戻った。
「おかえりなさいませ。今日はどうでしたか?」
と巨人が駆け寄ってきて聞く。
「良かった。感動したぞ」
「そうでしたか。珍しく、水筒と帽子、扇風機まで持ってさぞかし大変だったでしょう」
「この準備は完璧だったが途中新たな敵が現れてな。ギリギリだった」
魔王は尿意をことを言っていたが巨人はその話を聞きながら魔王様を追い詰めるなんて凄い敵がいたもんだと内心驚いていた。
学校の給食の時間。
今日は魔王が出てくるであろう場所に普通に机と給食を用意していた。
「あえて私たちは遠回りしていたのかもしれない。魔王は給食を食べたいのかもしれない。これで帰ったら安いもんだ」
と担任は言う。
今日のメインデザートはフルーツポンチ。魔王のために少し多めに入れてあるフルーツポンチはきらきらと輝いていた。フルーツも綺麗な色をしている。
だが、同時刻。魔王は列に並んでクレープを待っていた。
給食の時間が終わり、食器を片付けている時に
「そんなに簡単じゃないわよ。給食で終わるならもう終わっているわよ」
と委員長がほらみろと言わんばかりの顔で言っていた。
「まぁたしかに魔王は供物が欲しいわけだから給食なわけないよね」
と僕が答えた。
魔王の洞窟では魔王は盛大にくしゃみをした。
「誰かが噂をしているのか?」
と独り言を吐く。
あー惜しかったね。魔王。また頑張ってね。
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