第13話 セイシュン
勇者はボーリング場に来ていた。
メンバーは巨人、コウモリ、半魚人、炎の魔神。
「おい、お前の番だぞ」
とスペアを決めたコウモリが余裕を持って勇者に言う。
「俺の実力を見てろ」
「と言ってもお前が一番スコア低いけどな」
「そんなこと言ってやるなよ。こいつだけ人間なんだからしょうがないよ」
と炎の魔神がボーリングの球を持って擦っている。擦ったところからボーリングの球に火がついている。
「情けはいらん。俺は勇者だからな。勇者はここから逆転する」
と言い。意気込んだ勇者のボーリングの球はガーターに落ちそのまま何も倒さず暗闇に消えていった。
「これは魔王は倒せずということを予見しているのかな?」と半魚人。
「いやいや、絶対倒すからな」
と楽しいそうに勇者が返す。そのまま一旦レーンを出て、自販機へ向かう。小銭を入れて飲み物を買う。飲み物が取り出し口に落ちてきた。拾おうと屈んで商品に手をかけた時思い出したかのように言った。
「いや、違うだろ。なんだこの状況」
と1人でツッコミを入れた。
あの集まりから何故かこのメンバーで集まることが多くなった。誘われるのも謎なのだ。だって俺の目的は魔王を倒すことであるから普通は戦闘になるはずが何故だか休日にボーリングに来るようになっている。謎だ。これはヤツらの作戦なのか?
「いぇーい」
と巨人が大きな声をあげる。巨人が投げると凄まじい球が飛んでいく。今回もまた勢いがすごくてレーンごと破壊してピンを吹き飛ばしてストライクを出していた。
巨人がレーンを壊すごとにここのスタッフの魔女がレーンを元に戻す魔法を使って綺麗にしてくれる。
少し離れていたところにいた勇者はこのやり取りを遠くから見ていて
「お前のそのパワープレイはずるいぞ」
と勇者は声を出してまた輪の中に入っていった。
「ということがあったんだ」
と勇者は人間の国の酒場で旅のメンバーである魔導士に話していた。
「え、ダメじゃん。え、何やってんの?攻撃しなきゃだろそこは。」と魔導士が言う。
この魔導士は打倒魔王を掲げていた勇者に賛同して一緒に旅の仲間になったのである。黒いローブこそ着ているが中身は可憐な女性で癒しの魔法を得意とするサポート担当である。ただ口は悪い。
「だよな。俺もそうは思っているんだ。思っているだが。何故か戦闘にならないんだ」
「そんなわけないだろ」
と魔導士が言うと勇者の携帯が鳴った。
勇者は内容を見て笑い楽しそうにこちらに写真を見せてきた。
「この間のボーリングの写真を半魚人が送ってきてさ。見てよ。炎の魔神の炎が凄すぎてほとんどどれも写ってないんだよ」
「なんだよそれ」
「え、」
「青春かよ」
と魔導士に言われてハッとした。
勇者は気づかないうちに青春をしていた。
魔王を倒すことばかり考え、レベルを上げて勇者になった。全ては魔王を倒すために捧げた時間だった。だから勇者は友達と遊ぶことなどしたことがなかった。
「これが青春か」
と勇者はなんだか嬉しそうだった。
とあるボーリング場。
勇者と巨人、コウモリ、半魚人、炎の魔神がいる。
「じゃあ次が君の番だよ。どうかなぁ」
と半魚人が声をかけた先にいたのは魔導士だった。
「わ、私はこう見えても魔法が使えますからね」
と言い、球を転がす。
球は不思議な動きをしてピンを全て倒した。ストライクだ。すごく嬉しそうに魔導士がハイタッチしに来た。炎の魔神は触れられないのでそれ以外にハイタッチをした。魔導士はすごく楽しそうな顔をしていた。
ボーリング場の帰り道。
「今日来てた魔導士ってやついいな。また呼べよ」
と半魚人が勇者の肩をこづきながら言う。
「あれ、気に入ったのか?隅におけないねー」
と勇者がこづき返す。
「いや、そういうのじゃねぇから」
と半魚人は少し照れながら答えた。
みんなとは駐車場で解散した。そのあとは魔導士と2人で帰路についた。
「楽しかったです」と魔導士が言う。
「そうか。良かった。俺も楽しかった。また行こうな」
と勇者が言うと魔導士は少しうなづいた。
勇者はそれを見て、体を半分捻りながら叫んだ。
「なんだ!青春って!なんだこれ!どういうスタンスだ!俺は!勇者だろ!おいおい。何してんだ!何がこれが青春かだ。知るか!戦え勇者!戦え勇者!」
と高らかにツッコんだ。
そのあとにスッと魔導士の手が視界に入った。
魔導士の手には小さな紙が握られている。よく見ると今日のボーリングの成績だった。成績は勇者である私は単独でビリだった。
「まぁ戦ってはいますね。全力で負けてますけど」
と魔導士は言い放った。その言霊は今までのどんな魔法よりも勇者に刺さった。
「そうですねー」
と空っぽの気持ちで空気が抜けるように
勇者は言葉を発した。
魔王の洞窟。
魔王が戻ってきたのでさっそく巨人が報告へ向かう。
「今日もボーリングに行ったのか。凄いな。よく飽きないな」
と魔王が言った。
「魔王様も今度行きます?」
「我はいい。苦手なのだ」
「そうなんですね」
「ちなみにいつも誰と行っているんだ?」
という魔王の質問にこの間みんなで行ったボーリング場の写真を携帯ごと見せた。
魔王は写真をじっくり見てから携帯を返した。
「すごく楽しそうだな。でもここに写っている人間たちはなんだ?」
「勇者と魔導士でございます」
「そうか。勇者と魔導士ね」
と言う魔王を見て巨人は慌てて答えた。
「で、でも魔王様を討伐に来ているわけではなく。ボーリングをしに来ているだけですからね」
「分かってるよ。写真を見てるんだからこの2人が何をしに来ているかは分かるよ」
「あ、そうですよね」
巨人はホッとした。
今回は勇者達と魔王様との戦闘は避けれたのでこれはこれで良かったが魔王はもう少し危機感を持ったほうがいいのではないかと巨人は思い、魔王様を少し心配した。
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