第12話 プロジェクション
魔王は教室にいた。
いつものように魔法の鏡に献立を見せてもらってフルーツポンチがある日を狙ってやってきた。
登場まではよかった。登場のあとからおかしなことになっている。
今、我の見ている風景はどう考えても真っ暗な星空に放り出されたような風景になっている。
壁や床、天井が全て光り輝く星になっていてその中を浮かんでいるようだ。
「我に供物を捧げよ」
と禍々しい椅子にどっしりと座っていつものように言葉を発したが魔王の内心は混乱していた。
何日か前。クラス会議で供物とは何かということを再解釈したあと、担任がこんな案を持ってきた。
「プロジェクションマッピングだ」
と担任は高らかに言った。
魔王が出てきて、学校は困っている。早く供物を捧げて帰ってもらえという校長の指示で何でもやっていいと解釈した担任は予算に歯止めを効かせなくなった。
「教室の全面をスクリーンにします。それで魔王が来た時にスクリーンに宇宙を投影して魔王を感動させます。感動が供物になり供物が感動になるはずだ」と担任は胸を張って言った。
「え、供物は僕ですか?」
「お前は近藤だ。感動が供物だ」
と出しゃばった近藤を注意した。
「でも、感動という言葉と近藤という言葉は似ている。だから僕が供物の可能性もありますよね」
と近藤がまた出しゃばった。
「それはない。絶対、感動であるべきだ」
「じゃあ先生の感動と僕の近藤。どちらが供物か勝負しましょう」
と近藤が言うと何名のクラスメイトが近藤についた。
何故、近藤側についたのかはわからない。
「わかった。じゃあこの宇宙を一面に映し出す計画と一面に近藤を映し出す計画を二つ同時進行しよう」
と担任が言うと2人は握手を交わした。
何かとても理解できないことがゆっくりぬるぬると進んでいくように感じた。
着々と準備が進められ、いつ魔王が来てもいいように代替え案も準備し待ち構えた。
ようやくスクリーンが完成した。試運転をすると教室一面が宇宙になり、まるで宇宙の中にいるようだった。皆は感動して声をあげた。
続いて、近藤を流した。一面に近藤が映る。
小刻みにダンスする近藤。笑顔が弾ける近藤。
変顔をする近藤。犬と仲良くする近藤。
皆は感動して声をあげた。
「どちらがいいか選べませんね」と委員長が言う。
感性どうなってるんだ。目を瞑ってもわかるだろ。
気づかなかったが近藤軍団は近藤の写真がプリントされたTシャツを着ていた。
そして、近藤はいつからかサングラスをかけていた。
「まぁ我々の圧勝っしょ。フェェェ」
と近藤は右手をこの謎の擬音“フェェェ”に合わせて上下に下ろす動きをしていた。
この状態。これは辞書を引かなくてもわかる。
こいつは調子に乗っている。
「埒が開かないわ。投票にするわよ。みんな顔を伏せて」
と委員長が言う。
埒が開かない意味が分からないがとりあえず顔を伏せた。
「この中で私のことを可愛いと思っている人」
おい、委員長。この状況で遊ぶな。
「はい。降ろして。今のは実験ですよ。うふふ。次は本番ですよ」
という委員長の声が心なしかワントーン上がっている。思ったより手が上がっていたのだろう。
どうでもいい。
「では、本番。担任の宇宙がいいと思う人挙手」
手の上がる音なのかよく分からないが手を挙げている気配がする。
私はここで上げておいた。近藤は理解できないしやりたくない。
「はい。ありがとうございました。続いて近藤がいいと思う人」
これにも手が上がっている気配がする。近藤軍団以外に上げている人がいるのかはよく分からなかった。
「では降ろして顔を上げてください」
と言われ、顔を上げると生徒会がいた。
「今回は宇宙に決まりました」
「当たり前だ!我々生徒会が手をあげた方は100万ポイント分プラスだからな!」
と生徒会長が言う。それと同時に横の仁王像に変身している2人が圧をかける。その圧で誰も何も言えなくなった。
今回の供物は担任の出したテーマ【宇宙】がプロジェクションマッピングされることが決まった。
まぁ当たり前の結果だとは思ってはいたが近藤軍団は泣いていた。その泣いている姿を見てもどこに情熱をかけていたのかが理解できなかった。
魔王は宇宙にいた。正確には教室だが。
宇宙に浮いて、銀河を眺めていた。見た目にはどっしりと座っておりすごく退屈そうに見えるが魔王には状況の整理ができていなかった。
「我に供物を捧げー」
とよく分からない言葉で同じようなことを発してしまった。魔王は動揺していた。
給食終了の音楽が鳴る。魔王はそれを聞いて魔王の世界へ帰った。
戻ってきた魔王は項垂れていた。それを見て、巨人が駆け寄る。
「どうしたのですか?顔色が悪いような」
「真っ暗だった」
と魔王はうわごとのように言った。
「はっ。闇の魔法ですか」
と巨人は勝手に理解した。
魔王が帰ったあとの教室。
せっかくのスクリーンだから自由にしていいとのことで当たり前のように近藤が流れた。大きくたくさんの近藤が流れる中、近藤は踊った。
正解か分からないダンスが続いた。みんなで盛り上がった。これはこれで正解なのだろう。すごい盛り上がりでまさに熱狂だった。家に帰ってから気づいたが自分もいつの間にか近藤がプリントしてあるTシャツを着ていた。
呑まれるということはこういうことかと感心した一日だった。
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