第11話 プレゼント
ここは魔王の棲家がある洞窟。
今日は魔王は不在だ。魔王は人間界に行っている。どこに行って、何をしてるかを知っているものはいない。一番の側近である巨人の怪物ですら魔王がどこに行って何をしているのかは知らない。
そんな魔王不在の魔王の洞窟に怪物達が集まっていた。
魔王の側近【巨人の怪物】
身体が大きく、その上に俊敏。敵を力で薙ぎ倒す。
隠密の怪物【コウモリの怪物】
暗闇でも敵を捉えることができ、羽ばたく音は無音に近い。
水辺の怪物【半魚人の怪物】
水辺の中ならものすごいスピード泳げる。ゆっくり忍び寄って敵を水の中に引きづり込む。
火の化身【炎の魔神】
身体が火でできており、誰も触れることはできない。本気を出せば何でも燃やし尽くすことができる。火の温度がかなり高温のため水に少し耐性がある。火があるところに瞬間移動することもできる。
勇者【正義の勇者】
打倒魔王を目標としている。人間の中で一番強い存在。特技はノリツッコミ。
という五名で集まり何やら会議をしている。
「おかしいだろ」と勇者が言う。
「何がだ?」と巨人が返す。
「なんで勇者の俺がここにいるんだ。俺は魔王を倒しに来たんだぞ」
「知らないよ。ぐだくだ言うと水に引きづりこむぞ」と半魚人が言う。
「魔王様は今日は不在だ」と巨人が言う。
「いつもどこに行ってるんだ」と勇者が聞く。
「それは知らん」
「私も耳を澄ましておりますがいまいちどこに行っているのか分かりません」とコウモリが言う。
「まぁとりあえず今日集まってもらったのは他でもない」
と巨人が言うと大きなホワイトボードを持ってきた。
「魔王様が不在のうちに決めておきたいのだ」
と巨人はホワイトボードをひっくり返す。
そこには【魔王様の誕生日プレゼント】と書いてあった。その下にはバラエティ番組などでよく見る捲ると文字出てきそうな仕掛けまであった。
「魔王様は誕生日であったか」とコウモリ。
「それは知らなかった」と半魚人。
「何にしましょうね」と炎の魔神。
「そういうと思って私は常々リサーチしていた」と巨人が言い、ホワイトボードの隠れている部分を捲る。そこには他の怪物からの様々な意見があり魔王が本当に欲しいものをこれらの意見から絞っていこうということであった。
「君は何だと思う?」と巨人は勇者に聞いた。
「なんで俺が一番最初に言うんだよ」
「魔王様とは幼馴染でしょ」
「たしかにあいつとは小さい頃からよく遊んでいた。思い出すわ。あいつとよくやってた紫のブランコ。すごく高くこいだなぁ。やめてー高いよー降ろして降ろしてって言われたっけ。言われてないっけ。どっちだっけ。言われてはなぁぁぁぁい!!」と勇者は特技を繰り出した。
「やっぱキレが違うな」と炎の魔神がメモをする。
「メモするな。やめろやめろ」と勇者が止めようと手を出した。触ったので火傷して熱そうだ。
「私はこれらの意見から魔王様がこれを欲しがっているのではないかというものを選別して一つに絞ってみた。今日はそれを皆に見てもらい判断していこうと思う」
と巨人が言った。
そして巨人は小さな包み紙を取り出して開けた。中から箱に入った。小さな犬のようなぬいぐるみが出てきた。犬のような見た目だが額に小さな角が2本生えている。
「これが魔王様が今一番欲しいやつに違いにない」
と巨人は鼻息を鳴らし興奮して答えた。
「これですか?」
とコウモリが不思議そうに箱を見る。
「いやぁこんな物を魔王様が欲しがるのですかね?」
と半魚人が少し距離をとりながら見る。
何故、距離を置いているかというと濡れるからだ。半魚人は常に身体ぬるぬると濡れている。それで触れると箱が濡れてしまうことを配慮して距離をとっていた。
炎の魔神も同様。炎の魔神の方がより距離を取りそれを眺めていた。
「なんでこんなものが欲しいんだよ」
と勇者が聞く。
「色々な意見がありまとめるのはすごく難しかったです。でも魔王様の言葉を聞いたことのある様々な怪物から私も聞いたことのある言葉を見つけたのです。【ポンチ】という言葉。このような言葉を魔王様から聞いたことがあり、魔王様は最近よくこの言葉を言っています。ポンチとは何か調べました。すると【ポチ】というワードが出てきました。ポチは皆がギヌに付けがちな名前。そうなるとこのギヌのぬいぐるみで間違いないでしょう」
と巨人は力強く言った。
この犬のような見た目の動物は“ギヌ”と言いこちらの世界で犬のように飼われている動物なのである。
「ギヌは可愛いけど利点がないだろ。魔王がなんでこんなものがいるんだよ」
と勇者が言った。
その言葉を聞いた巨人からの圧がすごくてすぐに勇者は小さな声で「ごめん」と言った。
「これを魔王様が欲してたとしたらそのまま魔王様に渡せばよかったのでは?」
とコウモリが言う。
「そこは驚かせたいのです。魔王様をびっくりさせたいのです。だからこうして皆に集まってもらったのです。どうしたら魔王様は驚かれるでしょうか?」
と巨人が言った。
すごく大きな身体だが今は巨人が可愛く見えた。
「帰ってきて、いつも目がつくところに置いておいたらどうだ?」と半魚人が言う。
「じゃあ洗面台ですかね。まず魔王様は戻られたらコンタクトを外しに行きます」
「コンタクトなのか!?」
と早速勇者はメモった。
「でも、洗面台は濡れてしまいますね。他は何かないですかね?」
「棚の上にこっそりとはどうだ?」
と炎の魔神が言う。
「棚。いいかもしれないですね。魔王様のいつもいらっしゃる場所の後ろに色々な物が置いてある棚があります。たしかにそこに置いておけば魔王が気付いた時に驚きますね。そうしましょう。
皆さんありがとうございました。そろそろ魔王様が帰ってきますので私は準備をします」
と巨人は言った。
「帰ってくるなら俺は待つ。魔王と対決しないといけないからな」と勇者が言う。
「今日はやめておけって。このサプライズがあるんだから」と半魚人に言われた。
「たしかに。わかった。今度にする。じゃあまた来るな」
と勇者は魔王の洞窟を後にした。
他の怪物と魔王の洞窟から出て外で解散した。
魔王の洞窟を少し離れてから勇者は体を捻り
「いや、なんで気を使って帰らなきゃいかんのだ」
と綺麗にツッコんだ。
その声はそれはそれはよく通った。
巨人が準備を終えた頃。魔王は戻ってきた。今日も収穫はなかったように見える。
「おかえりなさいませ。お疲れ様です」
と巨人が言う。
「あぁいつもありがとうな」
と魔王が言うと魔王の後ろでウィーンと機械音がしてギャンギャンと音がした。
巨人がプレゼントしたギヌのぬいぐるみはセンサーで反応して、誰かが来ると後ろ足で立ち上がりギャンギャン鳴くロボットのぬいぐるみだったのだ。この仕組みを利用して、魔王に気づいてもらい驚いてもらうという巨人の作戦だった。
後ろでギャンギャンと鳴いて、立ったり座ったりして機械音がウィーンウィーンと聞こえる。
だが、魔王は気づいていなかった。魔王は疲れていたのかまったくこのあとも気づかなかった。
「魔王様、これを」
と痺れを切らした巨人が箱と人形を見せる。
「なんだ。これは」
「誕生日プレゼントです。おめでとうございます」
「あーそうだったな。ありがと。で、これはなんだ?」
「ギヌのぬいぐるみでございます」
「なんでギヌのぬいぐるみなんだ?」
「色々考えた結果これになりました」
「そうか。色々考えてくれたのだな。ありがとう」
と魔王は終始無表情だったがこの時は微笑んでいるように見えた。
「いえ、それでは私は失礼します」
と言い巨人はその場を去った。
思っていたリアクションではなかったが喜んでもらえたことが嬉しかった。巨人はまた頑張ろうと思った。
1人になった魔王はギヌのぬいぐるみを見て。「何故、私がこれを欲しいと思ったのだろう」と疑問が渦巻いていた。
その間もギヌのぬいぐるみは後ろ足で立ち上がりギャンギャンと鳴いていた。
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