第9話 鏡
魔王は魔法の鏡を持っている。
その鏡に願えばなんでも映し出すことができた。使い方は簡単だ。
「鏡よ鏡。お願いだ。〜を映し出してくれ」
と頼むだけで何でも映し出してくれるのだ。
こんなにすごい魔法の鏡を何故魔王が持っているのか疑問になるだろう。魔王らしく奪ったのか?
それとも代々受け継いでいるのか?どれも違う。この魔法の鏡はお祭りの景品だった。
魔王がまだ小さかった頃。お祭りに行った。そこでシャイナー釣りという出店と出会った。
シャイナーというのはサメみたいな魚である。
シャイナー釣りというのはそのシャイナーという魚の人形の口の中に紙が入っていて、そのシャイナーをおもちゃの釣竿で釣って中の紙の番号で景品と引き換えができるという遊びだ。
その日初めてチャレンジしたシャイナー釣りは苦戦した。中々シャイナーを釣ることが出来なかった。でもそのお店の人がサービスで手伝ってくれて無事にシャイナーを釣ることができた。
釣れたシャイナーの口の中の紙に番号書いてあるのでその紙をお店の人に見せる。お店の人はそれを見ると勢いよく鐘を鳴らした。どうやら一等賞だったみたいだ。お店にはたくさんのおもちゃやゲームがある。その中のどれなのか凄くワクワクしていた。お店の人が奥の方から何やら古い布に包まれた何かを持ってきた。
「おめでとう」
とお店の人が言うと幼い魔王にそれを渡した。
魔王は布を捲ると中くらいの鏡があった。
「それは魔法の鏡。どんなものでも映し出せるよ」
とお店の人が興奮して言った。
きっとその時の魔王の心の中が映し出されていたらものすごくブルーな色が映し出されていただろう。その頃の魔王はおもちゃやゲームが欲しかったのだ。その鏡は大人になるまで使うことはなく、魔王という職についてからふと思い出して倉庫から引っ張り出して少し知りたい情報などを魔法の鏡に聞く程度で使っていた。
ある時、ふと「我が好きそうな物」というテーマを鏡に与えてみた。すると鏡は見たことないものを鏡に映し出した。
たくさんのフルーツが色とりどりに器の中にシロップと一緒に入っている食べ物だった。
魔王はこの威圧感がある見た目からは想像できないだろうがカラフルな物が大好きだった。威厳もあるために公にはできないが実はこっそりとカラフルな物を身につけたりしていた。
そんな魔王にとってはこの食べ物の見た目はドンピシャだった。フルーツも好きなのですごく美味しそうだった。
「これはなんだ?」と魔王は聞いた。
「これはフルーツポンチと言います」
「どこにある?」
「人間界にあります」
「人間界?」
「人間の世界です」
「どうやっていく?」
と魔王は鏡からたくさんの情報を集めた。
それから人間界へ行く方法を手に入れてまた鏡に尋ねた。
「どこでフルーツポンチは手に入る」
「ここです」
と映し出されたのは人間の学校だった。
そして次に映し出されたのは給食の献立だった。そこにはフルーツポンチが出てくる日が記載されていて、フルーツポンチがどういう風に提供されてどう食されているのかが映し出された。
そして、あの日に決行した。
実は魔王はちゃんと準備をしてフルーツポンチを奪いに人間界に行ったのだ。だが未だに食することはできていないが。
今日も魔王はいつものように魔法の鏡に給食の献立をお願いしていた。人間界に行く日はこれで決める。ただ、今日はいつもとは違った。
鏡に何も映らなくなったのだ。そして、反応もない。
「鏡、鏡よ!」
と魔王は必死に問いかけるが反応はなかった。ゆすってみたり磨いてみたりしたが反応はなかった。魔王は鏡を色んな角度から見た。すると品番みたい番号が書いてあった。部下にこれを調べさせるとなんとこの鏡は修理できることがわかった。
白い小さな車に乗って業者はやってきた。車の見た目には合わないくらい大柄のフクロウの怪物とイノシシの怪物が降りてきた。
「壊れた鏡はこちらで?」
とフクロウが言う。
業者の対応は巨人がする。魔王は遠くで眺めていた。
「これです」と巨人は鏡を差し出した。
「はぁーこれね。どれどれ」
とフクロウが手に取って眺める。
「電池じゃないの?」とイノシシが言う。
「電池式じゃないかもしれない」
「そうなの?だとしたら珍しいな」
という会話を遠くから魔王は聞いてた。
魔王は鏡に電池式のタイプがあることに驚きを隠せなかった。
「この鏡、魔法で動いてるわ」とフクロウが言った。
「珍しー」とイノシシが言う。
「最近なかなか見かけないよね」
「たしかに」
「じゃあ直してみようか」
「ほいさ」
業者2人は作業に取り掛かった。
遠くから見ている魔王は2人が一体何をしているのか分からなかったが鏡が鏡じゃない姿に変わったり色が変わったり火花が飛んだり水が出たりと目まぐるしかった。
「終わりましたー」とフクロウが言う。
「それでは失礼します」
とイノシシが言い、2人はまた似合わない小さな車に乗って帰って行った。
巨人が鏡をこちらに持ってきた。
「直りましたかね?」と巨人は言う。
「どんな修理だった?」
と魔王が聞くと巨人は頭を巡らせているのが分かるくらい目線だけ上を向き、少し間が空いてから
「分かりません」と答えた。本当に分からなかったのだろう。魔王は鏡を手に持った。新品のように輝いている。
「鏡よ鏡。給食の献立を見せてくれ」
と魔王が言うと鏡に給食の献立が映し出された。それを見て魔王は不気味に微笑んだ。
魔王は生まれてから一度も微笑みというのをしたことがなかったが今回の微笑みは自然に出てしまったらしい。
その微笑みを真横で見た巨人はこう語る。
「不気味すぎて夢に出た。もう微笑んで欲しくない」
巨人はあの微笑みのせいで三日は寝れなかったという。
魔王の耳にはこの発言は届いていないがぜひ二度と微笑まないで欲しいものだ。
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