第6話 ぴらみっど

 今日も今日とて魔王は給食の時間の教室にいた。今日は人が四つん這いになり、ピラミッドのような形を作って全員のバランスが揃うと「はい」と掛け声をあげる出し物をしていた。最近彼らは給食を食べていない。我はフルーツポンチを奪いに来ているのにこの時間は一体なんなんだという思いを今日は内ポケットにしまった。


 ピラミッドは見事なものだった。これは拍手をするタイミングなのだろうが我は魔王。魔の者の王である。王には威厳というものがある。この威厳というものは生まれ持ってのインナーであり、脱ぐことはできない。その威厳を脱いでしまうとたちまち“王”という称号はなくなってしまう。

王イコール威厳なのだ。その威厳のせいでたまたま立ち寄ったショッピングモールでまったく知らないアイドルが歌って踊っていてその中に可愛い女の子を見つけて「あ、可愛いな」と思って曲に耳を傾けると曲も良くて「あーこれいいな」となって盛り上がるサビらしき部分で盛り上がっている他の人と同じように手を上に上げようと思っても上げられない。


何故か。


 それは“威厳”があるから。

このインナーは脱ぐことはできないのだ。

だからこの人間ピラミッドがどんなに凄くても拍手をすることができないのだ。

どれだけ練習してこれができるようになってたのかは見ればわかる。だからこそ拍手を送りたいとは思う。でもできないのだ。だが、彼らは拍手を待っていた。全然ピラミッドを崩さないのだ。上の方の人間はいいが、下の方の人間は汗がすごく腕が小刻みに震えている。ピラミッドを作っている人間達が我に目で見て訴えてくる。これはインナーを脱がざるおえないかもしれない。いつもの禍々しい椅子に肘をついて堂々と鎮座している我も動かねばならないのかもしれない。ピラミッドの下の方の腕がすごく震え出した。人間の腕はあれだけ震えるのかというくらい震えている。あの腕でホイップクリームを作らせたらすごく泡立つだろう。中間の人間の腕も震え出した。上の人間はまだ大丈夫そうだ。

魔王は何かを察した。目で訴えてきていた彼らの“視線”は徐々に“死線”に変わってきたことに。そして、ピラミッドから何かしらの圧を感じるようになった。肌がヒリヒリするこの感覚は昔に感じたことがあった。


 子供の頃、父が入るなと言っていた魔の森に1人で入ったことがある。その時、魔の森の主である化け物ライオンに遭遇した時にこの圧力を感じたことを思い出した。

「これは、もしや。威圧感か!?」

と心の中で思った。これが威圧感だとしたら彼らも魔王の器があるということか?

ピラミッドはもう限界がきていた。下の方の腕はもう空を飛びそうな勢いだった。そして、それに比例して圧力が増していた。

魔王は胃が掴まれるような感覚がしていた。

「これは、もしや。恐怖感か!?」

と心の中で思った。魔王はこのピラミッドから感じる圧力に恐怖していた。

魔王は無意識に少しづつ座っている体勢を変えて少しづつ拍手をする形態に体を動かしていた。


 ピラミッドはもう限界だった。そして人間達からの魔王への圧力は最高潮に達していた。魔王にはこのピラミッドの人間が物凄い化け物に見えていた。


 「すいませんでした」

と限界がきた魔王が手を強く握りしめながら小声で発すると同時に給食終了の音楽が流れた。時間がきたのだ。魔王は吸い込まれるように元の世界に戻り、限界にきていた人間ピラミッドは崩れた。


 落ち着いて冷静に状況を判断するとここまでの状況は側から見ると魔王が椅子に座って人間ピラミッドを見せられているだけである。

繰り返すが、ここまでの攻防は声を一切発せずただ人間ピラミッドが限界がくるまで魔王が見ていたという構図である。




 魔王の洞窟。

魔王が戻ってきたのを察して巨人が魔王の元へ向かった。


「今日はどうでした?」


と魔王に声をかけると魔王は汗をかき震えながら「すいませんでした」と言い、必死に拍手をしていた。

その姿を見て、巨人は恐怖した。

「一体、魔王様は何をしに行ってるのだろうか」その疑問が恐怖に変わり巨人も同じように拍手をしていた。2人の拍手は洞窟に響き渡った。



 魔王が帰った後の教室。

みんな崩れたピラミッドの中からなんとか散り散りになって休憩した。幸いにも誰にも怪我はなかった。


「あいつ拍手しなかったな」 


と田中が言った。


「あーそうだな」


「でも俺たち頑張ったよな」


「まぁそうだな」


と私は微笑んではいたがその微笑みには殺気を含ませていた。私は知っていたのだ。


田中、いや今回はコイツと言わせてもらう。コイツはピラミッドの一番上の役だったということを。

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