第4話 ばらばら
魔物しかいない洞窟の奥深く。
ここに入ってくる人間はほとんどいない。
入ってくるというか入って来れる人間がいない。もし、入って来れるのならその人間は相当な強さを持ったものである。
「おい、魔王はいるか」
と声がした。珍しいことだ。
巨人の怪物がゆっくりと声の方へ向かった。
「なんだ?」
と巨人が声をかける。大抵人間は巨人の姿を見て叫び声をあげて逃げていく。でも
そいつは違った。煌びやかな鎧を着て
大きな剣を持っていた。
「魔王はいるのか?」
と普通に巨人に聞いてきた。
「魔王様に何かようか?」
「あぁ。いるのか?」
「あ、宅配便か?サインはここでいいのか?」
「はい。ここに頼みます」
「苗字だけでいいか?」
「いいですよ。え、そんな苗字なんですか?見えないですねー」
「よく言われるんだよ」
「あれ?届いたものは?」
「あ!車に置き忘れました。いけねぇ。
取りに行ってきますね!」
「何やってんの。待ってるから」
「すいませーん。ってうぉぉぉぉぉぉい」
と振り向きざまに体を捻ってツッコミを全力で
いれているこの男は勇者である。
この世界で一番強い人間である。
この勇者の特技は“ノリツッコミ”
一旦ふざけている事柄に一度乗っかってそれからツッコミをするという高等技術である。
訓練もせず、反射的に出てしまうそれは天性の
ものである。戦いには一番必要のない能力であり、勇者もこの特技に悩んでいる。
勇者のこの渾身のツッコミは洞窟中に響き渡った。
勇者は魔王を討伐に来たのだが、魔王はここにはいない。
魔王は給食の時間の学校にいた。
今日もフルーツポンチが食べたいだけなのだが
なかなか伝わらず今日も食べられずにいた。
目の前でクラスの1人が箱の中に入って
寝そべっている。箱からは顔と足しか出ていない。そして、その箱を担任がノコギリで切ると言うのだ。
その光景を見て魔王は手を強く握っていた。
緊張しているのだ。
「さぁ行きます」
と担任が言う。
魔王は知らずうちに両手を握っていた。
足にも力が入る。顔の表情は変わらずにいた。
「さすが魔王だな」
と田中が言った。
「顔色ひとつ変えないでいる。俺なんて少し漏らしてるのに」
と田中のズボンがほんのり濡れているのが分かった。
魔王はいいが、お前はなんなんだ。
「行きます」
と担任が言うとノコギリで体が切断された。体が箱ごとバラバラに分かれた。
魔王は内心「ひゃー」と言っていた。だが顔にはまったく出さなかった。
バラバラになった手と足はバタバタと動いている。
「くっつけます」
と担任が言い、箱がくっついた。そして、箱を開けて中から何の問題もなく寝そべっていたクラスメイトが立ち上がった。
バーっとクラス中から拍手が湧いた。
気づいたらクラスの外の廊下から何人かの生徒たちが見ており外からも拍手が聞こえた。
一つのエンターテイメントだった。
魔王も内心ではものすごく拍手をしていたが
いつもどおり微動だにせず。
給食の時間は終わった。
魔王がこの世界にいる時間も終わった。
魔王が禍々しい椅子と共に戻ってきた。
それに気づいた巨人の怪物が近づく。
「魔王様、今日は勇者が来ました。え、魔王様!?」
巨人の怪物が魔王を見ると魔王は無表情で泣いていた。
「怖った。体が真っ二つになって怖かったよ」
と言いながら魔王は手を強く握りしめていた。
それを見た巨人は魔王様が行ってるところは本当に怖いところなんだと震えた。
「今日はどうなってたと思う?」
と田中が言う。
「あの手品か?」
「そう」
「分かんない。わかるの?」
「え、わかんない」
「わかんないのかよ」
「でもあれだけ盛り上がったのなら文化祭はあれで決まりだな」
「あーかもな」
うちのクラスは給食をまったくちゃんと食べれてはいないがうちのクラスの出し物のクオリティが上がっていることは間違いなかった。
「今日のクラス会議は次の出し物を何にするかだ」
とクラス会議で担任が言う。
もはや供物という言葉はどこかへ行ってい皆
“出し物”のことばかり考えていた。
「出し物はどうしましょうね」
と委員長もテンション高く言ってる。
ストッパーである委員長もこの調子だ。
もう止まらない。我々はいつしかエンターテイメント集団の道へと進んでいた。
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