第9話 プロトン山の戦

平原が霧に霞む早朝、僕は王国騎士団とその兵士らと共にプロトン山を目指して河沿いを上に進んでいた。目の先には薄緑の芝の上にポツポツと魔物がいるだけで、山はまだまだ見えない。


プロトン山奪還作戦。魔物が支配している大陸の東西の道を奪還する。

僕は力を貸してほしいと頼まれ、王国騎士団に協力した。

魔王の城も西側にあるからどちらにせよ山は通らなければならないし、町々を脅かす魔物を倒さなければならないからだ。


「こちらの臭いに気づいたか」


対岸にある森のようなものがうねうねとしている。どうやらあれは魔物の軍勢のようだ。

僕たち大勢の人間が歩いているのを見て活発になりだしている。

こちらに比べて圧倒的に数が多く見えるが、そんなことはない。その影が大きいのがいくつかあるせいでそう見える。

しかし少ないからと言って楽ではない。魔物の個性は強く、数の計算なんて簡単に破壊できるくらいだ。


「とりあえず様子を見ながら兵を進めることにしよう」

「そうですね」


平原をさらに歩いていく。

だんだんと日は昇り、周囲は温かくなってきた。

霧も消えて周りが良く見える。煌めく川の流れも古い遺跡の柱に寄りかかる木も、たまに咲いている黄色い花も――――――――その崩れた断面に苔を生やしたプロトン大橋も。


これは戦だ。命のやり取りをする。

こんな綺麗な場所でも関係なく、血が流されるんだ。

あの橋が使えなくなったように日常にあったものが奪われていく。


なんでこんなことになるのだろう。

どうして神は魔物なんて存在を作り出したのだろう。


「おい、あれはなんだ?」

「なんだあれ?」


後ろの兵士たちが手で太陽を隠しながら上を見上げている。僕もすぐに真似をして目を凝らした。


「淀んでいる……?」


空のそこだけが丸い場所ができていて、そこに映る雲がブルブルと揺れている。丸の広さはかなりのもので、しかもだんだんと広がっていっている。


何かの魔法だろうか。でも騎士たちが使っている様子もないし、近くに魔物はいない。

だったら何かしらの聖なる現象、奇跡だろうか。あるいは厄災の予兆か。


いや違う。あれは未知のものじゃない――――――――巨大な水の球体だ。こっちに急激に落下してきている水の魔術だ。


「みなさん、あれは落ちてきます! 離れてください!」

「いや、ダメだ。前を見ろ」


冷静な騎士団長の声に振り向くと――――――――魔物の大群が並んでこちらに迫ってきていた。


もしもここで兵の陣形が乱れれば、たちまち僕らはあの大群に叩きのめされてしまう。

とはいえ避けなければ巨大な水の球がぶつかって兵は流されてバラバラになる。そうなればあの大群を止められず、僕らは魔物に容易くやられる。それに後ろの先には町があるんだ、止めなければ大群に町が滅ぼされてしまう。


ど、どうする。他に方法はないのか。

混乱してオドオドとしている兵士らが僕を見ている。勇者の力でこの窮地を救ってほしいという眼差しで。

でも僕にはあの水の球を破壊することも止めることもできない。

いや、光の刃ならもしかして――――――――。


「兵たちよ、進め! あの魔物の大群を駆逐するのだ!」


騎士団長は抜いた剣を大群に向け、大きく声を上げた。

凄まじく気迫のあるその顔はまさしく人のために戦う、英雄のものだった。


しかし兵士たちはまだ混乱して立ち尽くしていた。

突然の危機にまだ頭も心も追いついておらず、騎士団長の叫びが聞こえなくなっているようだ。


「ここで戦わずして家族の死を望むのか! 命に代えても我々は戦うと決めたはずだ、魔物に立ち向かわずして平和はない! 兵たちよ、その気高い魂を信じる時だ!」


騎士団長の演説に兵士たちは正気を取り戻すだけでなく、その戦意が爆発していた。おのおのの武器を掲げ、騎士団長の鼓舞に叫んで応えている。


「さぁ行くぞ!!!」


騎士団長は叫び、魔物の大群に向かって走る。兵士たちもそれに続いていった。

一面はすぐに気高い声と力強い足音が響き渡り、視界を覆う砂煙は戦士たちの決意に置き去りにされていた。


ただ置き去りにされたのは僕も同じだった。

僕も続いて走り出そうとしたが、一人の騎士が河の岸まで僕の手を引っ張ってきたせいで。


「勇者様は別行動です」


まわりで数十人の騎士がいろいろと準備していた。

突然の作戦変更にしてはまったく焦らず冷静に整えている。国のために沢山戦ってきたのだということがわかる、そんな手際だ。


「我々は岸から回り込んで後ろから群れを攻めます」


なるほど。騎士団長の作戦はとても現実的だった。

兵を進めることで水の球をかわし、バラバラになるのを避けた。その代わりに後ろは泥地帯になって逃げられない。

ただ兵たちは囮であり、僕たちが本命。後ろから攻め、群れの長を倒し、魔物らの統制を取れなくする。そうすれば群れは崩壊する。


「勇者様、準備が整いました」

「わかりました。向かいましょう」


数十人の騎士とともに僕は岸を進みだした。

向こうには激しく動く影がいくつもある。その中にはすでに倒れていくのも。

一人でも犠牲者を減らすために急がないと。



――――あとがき――――

すっごく書きにくい。調子が悪い。

そういう日があるのはわかっているけどもどかしいものだ。


この続きは別の日に書くことにしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る