第4話 アスタの町

草原を往き、丘を登りきった。

どこまでも広がる野原、青い空、心地よい風。

そして奥に聳え立つ山脈の肌、そのふもと近くに町が見える。原の真ん中にポツンとその石壁が囲われている。

また煙突からの白い煙も数本、空へ上っている。

「あれがアスタの町か」

ここはライト城から少し北西。

城の兵によると、悪の王がいるとされる西の魔山へ行くには、城から北西のアスタ高原を渡って行くルートしかないようだ。

細かく言えば、アスタ高原を越えてシーム地方から河を大橋で渡り、大陸の西側へ行ける。

なかなか遠いものだ。

「ふぅ……行くとしよう」

丘を下り、アスタの町へ。

とりあえず今日はそこへ行って、休むことにする。

まだ三種の神器の、盾が見つけてないから情報収集もしよう。


――太陽の光を浴びながら僕は、高原を進んでいく。小一時間ほどで石壁は近くなった。


「こんなに高い壁だったのか」

先程は遠くからだったから気づきはしなかった。

壁は思いのほか高く、丈夫そうだ。

だがその理由も納得いく。ここらへんは魔物がよく湧いていた。

その高原の真ん中にある町だから、それほどの防御は必要になってくるのだろう。

「おい、そこの人」

「はい?」

赤い鎧姿の兵士、王国兵が壁のほうから歩いてきた。

「町は今、大変忙しい。旅人を受け入れる余裕はない」

「なにかあったのですか?」

僕が聞くと王国兵は顔を曇らせた。

ここからだと町は静かなようだが、この感じはただ事ではないのかもしれない。

「申し遅れました。僕は勇者です。中へ入れてもらいたい」

「勇者……勇者様でしたか! 先程の無礼をお許しください! ど、どうぞ、町の中へ!」

見た目は若い。それは僕と同じ。

とはいえ、何か怯えすぎているように見える。やはり何かの事件が起こったのだろうか。

「そんなに怯える必要はありません。僕が解決しますから」

「あ、ああ、はい」


――王国兵の肩を叩き、僕は門を潜った。


アスタの町。

プロトン大陸の東にある広い高原、アスタ高原にある町だ。

港のあるシームの町と首都であるライト都のちょうど真ん中に位置するため、交易の中間点でもあり、休み場所でもある。

ただそれだけではない、この町の一番の特徴は、武具の生産だ。

「おい、もっと火を強くしろ!」

「わかりやした!」

そこらからハンマーで鋼を叩く音が響いて混じれている。それもかなりの大きさで。耳の奥に石を投げつけるような。

そして暑い。町の至る所からの鍛冶場の熱が籠っている。

顔を見上げると、山脈が僕を見下ろしていた。厳密にはプロトン大岩という岩らしい。見る限りでは山のようだ。

あの山脈から鉱物を採掘し、町へ下ろし、鍛冶をするようになったのだろう――――あれ?

「何の問題もない?」

町は賑わっている。門の兵士が深刻な顔をしたような雰囲気ではない。

何かの勘違いだったのだろうか。

「だが異変のないなら、それはいいことだ」

ともかく宿を目指すとしよう。泊まれなければ野宿だ。

「――ん? あんた剣士か?」

木箱を担ぎ、拭い布を頭に巻いている青年が、僕の腰のほうをじっと見ていた。聖剣ではなく、僕の愛用剣のほうだ。

「そうですね。剣士のような者です」

「あまり見ない剣だな。ちょっと見てもいいか?」

青年をよく見れば、エプロンに腰にハンマーを携えている。鍛冶師のようだ。

あまりにもジロジロと見てくる、そこまで興味があるのか。

僕は剣を手渡した。

「これは年代物だ。だいぶ古い、太古ってほどじゃないが、起源的だ」

「そうですか」

「これ、どこで手に入れたんだ?」

「いえ、この剣は作ってもらったものです」

「あんた、外から来たのか。外にはこんな剣を扱う鍛冶師がいたんだな、すごいもんだ……」

青年は強くため息をつき、その険しい顔を隠しながら、剣を僕へ手渡した。

何をそこまで悔やんでいるのだろう。

「僕は職人じゃないからわかりませんが、この町の熱もすごいと思いますよ」

「はは、そう言ってくれると嬉しいもんだな。ただ……こんなの、大したことないんだけどよ」

青年は山を見上げた。

「実は鉱石の供給が一か月前から滞ってるんだよ。武器も鎧もなかなか製造できない。おかげで町は困窮してるんだ。今上がってる煙のほとんどは、壊れた武具や使わなくなった鉄とかを溶かしてできてる。それももう、限界近いけどな」

どうやら門の兵が深刻な形相だったのはこれが原因のようだ。

鉱石の不足による町の不安定。

ここはプロトン大陸の武具の供給の源だ。早く解決しなければ、魔物と戦う兵士たちにも過大な影響が出てしまう。

「親父も戻ってこないしな……」

「親父?」

「あ、ああ、なんでもない。悪かったな、旅の人にするような話じゃなかった。忘れてくれ」

青年は申し訳なさそうに苦笑いして去っていく。

腰にあるハンマーは揺れることすらなかった。


――――僕は歩き出した。先へ、町長の家へ。


金床から鳴る音の少なさに僕は気づけなかった。

だがそのことに悲しんでいる暇はない、僕にできることをするんだ。

「止まれ、旅人よ」

町長の家のすぐ手前、王国兵たちが前を塞いだ。

険しい面持ちで僕を睨んでいる。

「町長に何の用だ?」

「話があります」

「話? そもそも旅人がこの町に入ることは許されていないはずだが?」

多くいる兵士たちのどれもが怖い顔をしている。

相当に逼迫しているのだろう。

「僕は勇者だ」

「勇者……? 確か伝令によると見た目は――――も、申し訳ありませんでした! 道を開けろ!」

並んだ兵士たちの間にできた道を進んでいく。

数十の兵士がいながらも解決されていない、問題は難題のようだ。

「おや、ついに来てくれたのですか。勇者様。どうぞ、中へ入ってください」

杖に背を曲げた長老が戸を開け、 僕を向い入れてくれた。

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