第3話 聖剣
洞窟の奥の奥まで進むと、ちらほらと石柱が建てられていた。
それからさらに先に行けば、石煉瓦の道が敷かれ、燭台も並べられていた。
埋もれた遺跡なのだろうか、にしては岩肌があるまま。
「……これは」
道なりに歩いて、苔ついた石のアーチが目の前に。そこには何か書いてあるが、知らない言語で読めない。
また中には、台座のようなものからは細い何かが刺さっている。
僕は走っていく、何か吸い寄せられているようでもある。
「――?」
突然、空洞に何重にも鋭い音が響き渡ってきた。しかもしだいに大きく高く。
僕は足を止めて辺りを見回したが、何もいない。僕は耳を澄ました。
「……」
音はより増幅している。でもどこからだ。
さらに耳を澄ましていく。
「……上だ!?」
頭の上から突き刺す鋭い音圧から僕は倒れるように飛んだ。
その瞬間に、強烈な風が僕の背中を押し、硬くヌメつく壁に叩きつけられた。
「な、なんだ?」
天井に大きく空いた穴からは眩しき太陽の光が、また砂煙を煌めかせている。
そのなかに黒く鈍った影がハッキリとある。
これを凝視しているとその影はこちらへ歩き出し、重厚で鉄々しい足音――――違う、これは鎧がぶつかっているのか。
「キサマガユウシャカ?」
砂煙が消え、影が照らされる。
それは身長およそ2.5m、悪魔の如き二つの角を兜に、膨れた胸鎧、右手には紙切れのように薄く、掠るだけで首を飛ばすような刃の大斧を携え、左手には丸長の大盾。
まさしく悪魔の騎士。
「オウノレイニヨリショケイスル」
魔物のくせに流暢な口だ。
僕は剣と盾を構え、向い立った――かなり大きい魔物だ。そのうえ重装備、巨大な斧と盾。いくら巨体とはいえ、そう素早くは動けなそうだ。しかし硬さもある。
「どうする……」
「ユクゾ」
一歩一歩こちらに進んでくる。そのたびに地面が揺れ、また威圧感がある。
自然と足が引いてしまいそうになるが、怖気づいていては倒せない、自分を信じろ。
剣を握り、悪魔の騎士を中心に僕は大斧と逆の方向へ忍んで回る。
あの鎧、恐らく剣は通らない。首、脇、股に鎧の隙間が狙い目。
そして長い斧じゃ、接近してしまえば攻撃はしにくいはずだ。
ならばすることは一つ。あの殺気立った間合いの内側へ飛び込むよりほかはない――僕はその盾の側へ走り出した。
「――!」
対して悪魔の騎士は大斧回し、僕を間合いから外へ追い払おうとするが、僕はそれを飛んで躱し、そのままその左脇の下へ潜り込んだ。
やはり動きは遅い、視野も近くは見渡せない。ただのノロマだ。
「もらった!」
僕は剣を振り上げ、脇から左腕を断ち斬った。
まずは片腕、かなりダメージが入ったはずだ。
「今度は右を狙って――――!?」
すでに頭上に斧があった。さきほどよりもかなり速い、避けられない。
盾を構えても盾ごと斬られる、このままじゃ負ける――いや、待てよ。
僕は地面に放置された巨大な盾を持ち上げ、背にした。
「!!」
火花とともに金属音が響き渡った。
重い大斧は止まり、僕も無傷。
正義のためとはいえ、魔物の武器を使う羽目になるとは。
背の盾が軽くなり、僕は一度距離を取った。
「なんて体力なんだ」
あの魔物は片腕を切断され、疲弊するどころか素早く動いている。
他の魔物とはレベルも違う。
失敗した。速く動けるのは、片腕の分だけ体が軽くなっているせいだろう。間合いに入りにくくなってしまった。
あの斧が高速で振り回されれば敵わない。ここは遠距離から様子を見ることにするか。
僕は祈り、剣を魔物へ向けた――――!?
「!!」
その寸前、僕が火の術を使おうとした寸前、顔の横を火の玉が掠っていった。
あの魔物、魔術も扱えるのか。
そう気づいている間にまた火の玉は飛んできた。
僕はそれを避けていくが、すぐにまた火の玉はこちらへ放たれてくる。
連射される火の玉はそこまで速くはない、十分に避けられる。これはもちろん距離があるからだ。近づけば危険だ――――しかしそれは逆に機会でもある。
立ち止り、火の玉を連射する。それは隙でしかない。
うまく接近さえすれば、致命傷を与えられる。
「ならば賭けるしかない」
僕は飛び交う火の玉に走る。
避け、避け、距離を詰め、危険な場合は盾で受け、逸らし、魔物へ接近していく。
「――!」
火の玉が止まった。同時に悪魔の騎士は斧を振り始めようとしていた。
だがすでに距離は近い、素早き一撃が来る前に、僕は全力で走り出した。
「もらった」
股は目の前、思いのほか斧は遅く、まだ振り下ろされてもいない。
僕は両手に剣を握りしめ、股の下から右足を切断しようと剣を振り上げた。
「――!?」
しかしその瞬間に悪魔の騎士は軽やかに後方へ飛んだ。
攻撃をさせて躱した。僕にわざと攻撃させた。
悪魔の騎士は空中、後ろへ移動しながら大きく斧を担ぎ、正確に僕を目掛けて振り下げる。
その鋭い斧刃には全体重が満遍なくかかり、まさしく最大の一撃――――大切断。当たれば致命傷、いやこの場合は死だ。
「――」
刃に空気が引き込まれる。体が浮いていく。
まさかこんな技を持っているとは。やはりここの魔物は――――だがまだ負けてない。
攻撃にすべてを割いた。その攻撃の途中は必ず隙だらけになる――――僕は前に大きく飛び出した。あの魔物を狙って、その首を狙って。
「――――!!」
迸る音とともに斧は突き刺さり、煙を上げた。
立ち込める煙は深く、影一つ見つからない。
――――たがしかしそれが晴れるのを待つまでもない。なぜならすでにその首は宙を舞い、光を浴びていたのだから。
落下した悪魔の角は折れ、その鎧は横たわっていた。
「はぁ……はぁ……」
危なかった。
あれほどに器用な魔物が存在するだなんて。
驚いてるうちに殺されていた。
「……ん?」
天井から差し込む光が曲がっている。曲がってどこかへ進んでいる。
その先は台座か。眩しくてよく見えない。
太陽のように強く、透き通るほど白い光が僕の目を眩ませる。
たが何かそこに呼ばれている気がして、僕は歩いていった。
「剣?」
その持ち手を握り、僕は引き抜いた。
刃から眩き光を放つ剣はさらに輝き、光は黄金となっている。
「これが聖剣か?」
力がみなぎってくる。これは間違いない、これが聖剣だ。
なにか、刃に何か刻まれているが――――眩しくてとても直視できない。
「でもとりあえず振ってみるか――!」
剣を一つ振ってみると、その刃から煌めく黄金の刃が放たれた。それは壁にぶつかると消えていった。
「今のは……って重い!」
突然剣が重くなった。
しかもよく見ればさっきまで眩しかった刃も錆びついて真っ暗だ。
もしかして聖剣は一回しか振れないのか。そう思わせるほどに重く、みなぎった力も消え、むしろ体から力が抜けていく。
「頑張って手にしたのに、扱えないとは」
一撃の強力なのだが。
どこかがっかりした気持ちを抱えながら、僕は洞窟を後にした。
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