第24話 八郎

 プレイルームでは桜木武士が子供達に絵本を読んでいた。

『八郎』だ


「泣ぐなわらしこ おめえの泣ぐの見れば おらも泣ぎたぐなる しんぺえすんな 見てれ!」


 八郎が海に入って行くシーンだった


「八郎は泣いてるわらしこの頭 ひとなですると うしろ向いて ちらっとわらって

「したらば まんつ」と言ったかと思うと 「わああ あ」と両手を広げて よせてくる波こをむねでおし返しながら 海の中さ 

ぐっくとはいって行ったと」


 村人が泣いて八郎に感謝する


「んだども わらしこはまだわらしこで 

よくわからねえもんだから 八郎の頭こ波がこえて いままでかみの中に巣をかけていた小鳥めらが ぱっととび立って ぴちぴち ちいちい ちゅくちゅく かっこーってないて あがりさがりするのを見て ちっちゃな手こぱちぱちたたいてよろこんでらと

したっきゃ 八郎のしずんだあとの波この上にも ちっちゃなあわこがぱちぱち立って まるで 八郎がわらったように見えたとしぇ」


 涙が溢れた。八郎にではなく桜木武士にだった。

「八郎じゃない わらしこや」

 桜木武士が言った言葉。

 八郎はハチのおじさんだ。お父さん。


 物語が終わると子供達がちっちゃな手でぱちぱちと拍手した。

 桜木武士が近づいてくる。慌てて涙を拭いた。

「良かった すごい良かった」

 感想を言うと桜木武士はテレ笑いをした後で呟いた。


「俺も手を叩いて喜んだ」

「……………」

「母親が部屋から出て来た時……」


 当たり前だ。お母さんが無事だとわかって喜ばない子どもなんかいない。

 でも何も言えなかった。

 その後ろの部屋の中ではハチのおじさん、お父さんが火に包まれていた。

 その事が桜木武士を苦しめている。

 何も言えずまた涙が出た。


「泣ぐな おらも泣ぎたぐなる」

 桜木武士は私の頭をひとなでしてそう言った。

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