第20話 素生

 だいふくもちの読み聞かせの後、桜木武士にボランティアに誘われた。

「児童福祉じゃなくて母子生活支援の施設やけど」

「桜木君がボランティアに行ってるとこなん?」

 桜木武士は少し間をあけてから言った。


「昔住んでたとこ」


 そしてその数日後、こうして母子生活支援施設『あすか園』の前に立っている。

 今日は園内の畑で採れた野菜を収穫してみんなで食べる、いわゆるハロウィンパーティーだ。

 桜木武士は例のピンクのくまたんTシャツを着ている。

 思わずまじまじと見つめてしまう。

「ばあちゃんがくれたから‥‥」

 ちょっと恥ずかしそうに下を向く桜木武士。


「あらあら、来てくれたんやねありがとう」

 あすか園の入り口に立っていた小柄で可愛らしいおばあさんが桜木武士に声を掛けてきた。

「ばあちゃん」

 え? この人が、ばあちゃん?

「綺麗なお友達も連れてきてくれて。今日はありがとうね、よろしくお願いします」

 ばあちゃんに頭を下げられ、慌てて挨拶する。

「石田桃です。今日はよろしくお願いします」

「武ちゃんにこんな素敵なガールフレンドがおるなんてねー」

 まあまあとばあちゃんはにこにこと私の手を取った。

「仲良くしてやってねー 愛想はないけど」

 ホンマですねとは言えない。

「こちらこそ。今日は誘ってもらえてうれしかったです」

 私も笑顔で答えた。


 ばあちゃんは実の祖母ではなくこの施設の園長先生だった。

 桜木武士がお腹にいる頃、シングルマザーだったお母さんはこの施設で桜木武士を産み、小学校に通える年齢になるまでここに住んでいたそうだ。

 その後お母さんが入院し、その間も桜木武士だけがこの園で預かられていたことは後で知った。


 ばあちゃんに園を案内してもらっている途中、前方からやって来た車椅子の女性が、

「武士」 と桜木武士に声を掛けた。

 桜木武士は私に「母親」と言って、その女性の元へ私を連れて行った。

 優しそうなお母さんだった。彼女は私を見てとてもうれしそうに微笑んだ。

「こんにちは。びっくりしたわ、友達連れてくるって言うだけでも驚いたのに。こんな可愛いお嬢さんやなんて…」

 お母さんは桜木武士に視線を送りながら、

「こんな愛想ない子と仲良くしてくれてありがとうね」

とばあちゃんと同じようなことを言った。


 今日はお母さんの講演があるらしい。

 今施設に住んでいる母親たちや、ボランティアで参加している人やこれから施設に入ろうかと考えている人達に向けて、昔この施設を利用しており今は桜木武士と二人で別の場所で暮らしているお母さんの体験談を話すらしい。

 私も聴きに行こうと思った


 桜木武士は芋掘りで大活躍していた。

 子どもたちは桜木武士の背中に張りついたりよじ登ったりして歓声を上げている。

 肩に男の子を乗せてのしのし歩く桜木武士に、これでもかというほどトキメいてしまった。

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