第19話 吐露

 バザーには行けなかった。

 結局行きたいと言い出せないまま昨日がバザー当日だった。次の日の今もバザーがどうだったのかまだ聞けていない。

 ずっと当然の様に授業のたびに隣に座って来たが、桜木武士は嫌だと思っていないだろうか、急にそんな事が不安になる。

 どんどん卑屈になっていく。


「昨日ありがとう」

 授業終わりに例の二人組がやって来てにこやかに桜木武士に話しかけた。

「いや…」

 相変わらずの桜木武士スタイル。

「あの絵本、どうかと思ったけど子ども意外と食いついてたよねー」

 髪の長い方の女の子が話しかける。

「私も子どもらと一緒に真剣に聞いてたわ」

 ショートボブの子が桜木武士に笑いかけた。

「また機会があったらお願いしても良い?桜木君意外に人気者やったから。あ、意外とか言うてゴメン」

「いや…」


 桜木武士が絵本の読み聞かせしたんや。

 しかも人気者?! 見たかったー 見たかったなあー くそー

 二人は私にもペコッと頭を下げると、またねー ありがとうー と去って行った。


「絵本 読んだんや?」

 恐る恐る桜木武士に話題を振る。

「うん 借りてたやつ」

「まさか……がらがらどん?!」

「違う 自分に借りてたやつ」

「だるまちゃんとてんぐちゃん?」

「違う」

「よあけ?」

 家でも色々練習出来るように私の絵本を何冊か貸していた。何を読んだんだろう。

「いんげ わしゃあ だいふくもちじゃあ」

 声音を変えた桜木武士が言った。


「だいふくもち」?!私の一番好きな絵本。やっぱり一緒に行けば良かった。聞きたかったな。

 多分かなり悔しそうな顔をしていたのだろう。

 桜木武士が不審そうに顔を覗き込んだ。

「あ、聞きたかったなー と思って。桜木君のだいふくもち……」

 さらに小さい声で付け加えた。

「私も行けば良かった。ホンマは行きたかったのに… 今さら行きたいって言い出せんくなって。言えば良かった…アホや、ホンマ」


 ふいに桜木武士は立ち上がると、私を見下ろした。

「行こう」

「どこに?」

「どっか空いてる教室」

「……?」

「聞いて だいふくもち」

 桜木武士が私を真っ直ぐ見ている。

「……きいて ええかよ」

 絵本の台詞を少し変えて尋ねると、

「きいてや」

と絵本の台詞を少し変えて答えた。


 その後別の場所で桜木武士はだいふくもちを読み聞かせてくれた。

「わしゃあこのとしになるまで こげんにうまいはなしをきいたことがない」

 私が言うと、桜木武士は恥ずかしそうに笑った。


 胸のドロドロが少しだけ軽くなった気がした。

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