第18話 内観
「やっぱり一緒にバザーに行きたい」
それだけのことなのに。簡単なその一言をどうしても言えなかった。
それからも桜木武士が、大学であの子達と話しているのを見るたびに胸のドロドロを感じた。
彼女達が桜木武士のそばにいる時は、近くに行かないようにした。自分がどんな顔をしているか想像すると近寄れなかった。
桜木武士と私は勉強のために一緒にいるだけで、友達と呼べるのかすらあやしい関係だ。わかっている。
十分理解出来ているのに。
桜木武士を取らないで!と叫びたくなった。
近寄るな!と鬼の形相で飛び掛かりたくなった。
これまで自分が誰かに口にして来た言葉のひとつひとつ、誰かにして来た行いのひとつひとつを思い出してみる。
突き飛ばされ、肩を突かれるより私の言葉は相手に深い傷を負わせていた。それはわかった。彼女達が私にそうしたくなった気持ちも理解出来た。でも…
出した言葉は戻らない。
ここで反省したところで傷を負わせた事がチャラになる訳でもない。
武器を手放すのが怖かった。
今さら何の武器も装備もなしでどうやって他人と付き合えば良い?
散々攻撃して来たのだ、自分がいつ誰からヤラれるかわからない。
あのショートボブの彼女。
彼女はこんな黒いドロドロを抱えてないんやろな。
女友達もたくさんいて、純粋にただ仲良く笑い合っているだけで、武器を用意したり相手を出し抜くことを考えたりした事ないんやろうな。ましてや闘ったりも…
ああ嫉妬ってこう言う感情だったのか、うらやましくて うらやましくて……
自信がない人間をあんなに嫌いだった理由がわかった。私こそ自信がなかったからだ、まさに同属嫌悪。
自信がないからたくさんの武器を欲しがり、ガチガチに武装した。
鎧の中の自分がちっぽけで下らない奴だとバレないように必死だった。
それらを許してくれる相手、くだらない自分でも受け入れてくれる相手にしか素裸を見せられない。見られない様出来るだけ強固に固め続けた。
どんなに言い寄られても誰も好きになれないはずだ。
私は私のことが嫌いだ。そう嫌いだから。
自分が好きな人が自分の嫌いな人と付き合うなんて考えられない。絶対に嫌だ。
私を好きになる男も嫌い、ただのアホだそんな奴は。
どんなに好きな人が出来ても、その人を好きになればなるほど私と付き合うなんて許せなかった。
このままでは一生桜木武士には告白出来ない、アプローチすら出来ない。なのに言い寄る女には牙を向いてしまう。
アカン…サイテーやん私。
胸のドロドロはますます重く濃くなっていった。
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