第16話 慚愧

 最近大学構内に入ると自然に目が桜木武士を探してしまう。幸い桜木武士はどんな遠くからでも見つけやすい。今日もその巨大な後ろ姿はすぐに見つかった。

 話しかけようと近づいて、桜木武士が誰かと話しているのに気がついた。


 女の子が二人。

桜木武士と向かい合って何か喋っていた。

女の子の一人が手を叩いて喜んでいる。

桜木武士の顔はこちらからは見えなかった。もしかして微笑んだりしているのだろうか。いつもの無表情である事を願いつつ足を速めた。

 三人に辿り着く前に、それじゃあと言う様に手を振って女の子達は立ち去った。

 一人になった桜木武士に声を掛ける。


「知り合い?」

 桜木武士は振り返ると押忍と効果音をつけたくなる仕草で頭を下げた。

「いや 初めて喋った」


「……ふーん」

 アレ?これではまるでヤキモチ焼いてるみたいに聞こえるかも……


「何か喜んでたみたいやなー あの人ら」

 うー これも詮索してるみたいやん?!


「今度ボランティア先の児童福祉施設でバザーするから手伝って欲しいって」

 何故だ!?何故桜木武士に声を掛ける!どう見ても子どもウケしないこの桜木武士に!! まさか狙っているのでは?!


「テント張ったりするのに男手がいるからって」

 なるほど納得した。そう言う事なら桜木武士はこれ以上ないほど打ってつけだろう。一人で五人分ぐらいの男手を賄えそうだ。


「手伝ってあげるんや」

「子どもに会えるし……」

 桜木武士は少し間をあけてから


「一緒に行く?」

と聞いた。とっさに

「いや 約束あるから!」

 勝手に口から出た言葉に自分で驚いてから気づく。バザーがいつあるのかまだ聞いてないのに…

「あー最近あんまり構ってないから連れがスネてもうて。時間がある時はなるべく会ってあげんと…」

 思わず嘘八百ついた後、連れって誰やねんと自分でツッコむ。下手くそか。

「そうか」

 桜木武士はそれだけ言うと、こちらに背を向け次の講義がある教室へと歩き出した。


 一緒に行くって言えば良かった。あの女子二人が気になってるくせに。

 今更やっぱり行きたいとはもう言い出せない。


 何故断った?!

 すぐに「行く!」と言っては負けたような気になるから?

 さっきの二人を気にしていると思われたら負けだから?

 何と勝負してんねん私は。


 真っ直ぐ前に向かって歩く桜木武士の背中を見ながら、何だかちょっと泣きそうになった。

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