第15話 愛著
結局絵本は主に「三匹の子豚」を練習した。あまり本に集中し過ぎず、周囲を見渡しながら読めるように何度も読んで文章を頭に入れる。
桜木武士の三匹の子豚はちょっと劇画タッチな渋味があった。でも意外とその低い声に惹き込まれる。
抑揚のある流暢な喋り口調より、少し平坦だが一生懸命伝えようとする桜木武士の様子は何だかこちらもキチンと聞いてあげなければと言う気にさせた。
子どもたちもそう感じてくれれば良いなと思う。
さっきの「八郎ではなくわらしこだ」と言う発言が気になってはいたが、どういうこと?と聞き返すのがためらわれる雰囲気だった。
誰かに憧れて桜木武士も身体を鍛えたのだろうか。それにしたって何もこんなにゴツゴツになるまで、やり込まなくても良さそうなもんだけど。
とにかく今は絵本の読み聞かせの練習に集中しようと、煙突からレンガの家に入ろうとして、ぐらぐら煮立った鍋の中に落ち「あちちちちー」と熱がるオオカミにダメ出しした。
その日の午後の授業「手遊び」は♪グーチョキパーでグーチョキパーでなにつくろ〜♪のリズムで歌う
りーんごころころ りーんごころころ
みーかんかん みーかんかん
ぴーまんぴーぴー ぴーまんぴーぴー
キャベツがキャー キャベツがキャー
パイナップルプル パイナップルプル
ぶどうー ぶどうー
とうもろこしこし とうもろこしこし
しいたけしー しいたけしー
キャベツがキャーで、脅かす様にわーと両手を前に出す桜木武士がレスリングの選手に見える。
ぶどうーでは正拳突きの要領で拳を前に突き出すのだが、これまた空手家にしか見えなかった。
パイナップルプルで腰をぎこちなく振る姿と、しいたけしーで人差し指を唇に当てて「しー」のポーズの桜木武士に、密かに萌えてしまったのはナイショだ。
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