第11話 意思疎通

 その後はカラオケで一緒に童謡メドレーを2時間ぶっ続けで歌い続けた。低い声はどうにもならないが、歌声は少し大きくなった。

 笑顔〜笑顔〜と合いの手を入れて無理矢理笑顔を作らせる。きっと子供は泣きだすだろう笑顔だったが本人は一生懸命だった。

 そこにまたちょっと、キュンとした。


 それからは時間があれば、大学でピアノの練習に付き合った。バイエルを持っていき一緒にピアノを弾く。

 桜木武士は優秀な生徒だった。真面目で熱心で努力家。コミュニケーション能力は未だ最低ラインだったが、少しずつ長文を話す様になってきた。

 無表情なだけだと思っていた桜木武士の感情の機微も、少しだがわかる様になった気がする。

「ピアノは何とかなりそうやん」

 うむ とうなづいてからすぐに

「ありがとう」

と言葉で伝えた

「読み聞かせは?次あるやん 授業で」

「……得意ではない」

 確かに。感情たっぷりに表現しながら読み聞かせをする桜木武士は想像できない。

「次からそれも一緒に練習する?」

 そう提案すると、桜木武士はびっくりするほどうれしそうに笑った。初めてみるその笑顔にまたしても胸がときめく。


 もしかして……私は桜木武士が好きなのか?

 この武士(ぶし)で厳ついゴツい(BIG)な桜木武士を?

 うむ 認めるのは悔しいがこの胸の高鳴りは……


 桜木武士にはいつも男たちに使う武器は効かない。鋼の様な無表情と無言で弾き返されるだけだ。リメンバー沈黙の艦隊。


 ピアノ 歌 表現力

 今のところ効果的な武器があるとすればその辺か。家に帰ったら絵本を読む練習をせねば。弟に無理矢理読み聞かせてどんな感じか感想を聞くのも良いかも。


 私の闘志は更に燃え上がり始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る