第8話 準備万端

 ピンクのくまたんを身に纏った桜木武士はそのまま教室へ入って行った。

 子供を怖がらせない様にと言うばあちゃんの思いはとても尊いが、今日は実習に向けての模擬実習を教室で行うだけだ。子供たちはいない。

 せっかくのくまたんTシャツだが……

「今日 子供いてないよ」

追いかけて桜木武士のそばに並んで伝える。

 うむ とうなづいた後、

「練習…」

とまた言葉少なに答えた。


 手遊びや絵本の読み聞かせピアノなどなど。保育士が学ぶことは座学だけではない。

 相手を飽きさせないための武器はあればあるほど有利だ。


「桜木君 ピアノは弾けんの?」

「あんまり…」

得意ではないを省略して桜木武士は首を振った。

「読み聞かせは?」

首を振る

 手遊びは?とは聞けない 

 おーきな栗の木下でー あーなーたとわたしーなーかーよーく あそびましょー

 踊っている桜木武士を想像した。

 あのぶっとい腕を胸の前でクロスしてお尻を振る桜木武士。夢に出て来そうだ。


「でも 頑張る」

桜木武士が呟いた。

 静かだが、ピンクのくまたんTシャツが胸の筋肉でビリビリと裂けそうな気合いそして闘志を感じた。

 よくわからないが何だかこちらまで気合いが入った。

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