第7話 ピンクの侍

 授業の終わり。

「次からの実習は二人一組で行いますので、取り敢えず今座っている隣の人とペアになって下さい」

と言った後、先生は教室を出て行った。


 思わず顔をガッと隣へ向ける。

 桜木武士はゆっくりこちらを見ると、また静かに頭を下げた。よろしくと言うことだろう。

 そのまま無言で立ち上がると、ガタイの割に重量を感じさせない歩き方で教室から出て行った。


 なんなのだアレは……あんな保育士見た事ないし。子供たちは見ただけで泣き叫ぶのでは?

 頭の中で「悪いごいねがー」とナマハゲになった桜木武士を思い浮かべてしまう。子供などワンパンチでぺちゃんこにしてしまいそうなあの腕で、幼子を抱っこするのだろうか……


 それよりもペアだ!あの沈黙の艦隊とコミュニケーションが取れるのか?!先行きがかなり不安だ。会話が成立するだろうか。かと言って最早どうしようもないので、まあなる様になるか…と諦めた。


 実習は水曜日だった。

 朝からの雨で髪型が上手くキマらずちょっと憂鬱だった。今日の相方、沈黙の艦隊の事も少し影響しているのかも知れない。


 教室に向かって歩いていると、教室の前の長椅子に座る巨大なピンクが目に入った。

 桜木武士がピンクのTシャツを着て自分の正面に傘を立て、柄の部分に脇を開いて両手をのせた状態で座っていた。

 侍?! そしてピンクッ!!!

 桜色のTシャツには可愛いクマと【KUMATAN】の

文字がプリントされている。本人はくまたんというよりグリズリーだ。

 こちらに気づくと、ピンクの侍はスッと立ち上がり頭を下げた。

「…おはよう」 

一応挨拶する。

「おはよう」

くまたんも挨拶を返した。

「……そのTシャツ…」

恐る恐る口にすると

「お前はゴツいから子供が怖がるってばあちゃんが……」

桜木武士にしてはかなりの長文で説明してくれる。

 ばあちゃんの心遣いはとても素敵だったが、余計に怖い事になっている。


 でも常に無表情な桜木武士の頬が薄っすら染まっているのを見て、不本意ながら、ちょっとだけ胸がキュンとした。

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