第4話 徒党

「可愛いって聞いてたけど大した事ないやん」


 聞こえよがしな声が廊下側の窓の外から聞こえた。そちらに目を向けると他のクラスの女の子が二人、明らかに自分を見ていた。


 お前よりは大した事あるけどな。

心の中で毒づいた。


「あれやったらまゆちんの方が絶対可愛いで」

私に焦点を当てて廊下の女子の一人が言う。

「ホンマやなー」

相方が相槌を打つ。と言うことは二人ともまゆちんではないと言うことだ。

 まゆちんがどんな子か知らないが、男の子絡みだろうと言うことは察しが付いた。どの男の子のことかまではわからなかった。

 中学に入ってから告白された回数は両手では足りないから。


 それにしても……

 何故いつも当事者ではない、自称親友の女の子がやってくるのだろう。全く不思議でしょうがない。

 当のまゆちんはこの事を知っているのか?

 三下の下っ引きのように「親分 見て来やしたぜ」と報告でもするつもりだろうか。

 煩わしい。

 まゆちんに因縁をつけられるならまだしも、何故何の関係もない、お前こそ大した事ないやんけな女にアヤつけられなアカンねん。


「なにアレー、感じ悪ぅー」

私と同じグループの子が廊下の二人を睨みつける。廊下の三下たちは、フンッとでも言いそうな勢いで顔を背けると廊下から居なくなった。


「まゆちんって3組の木下真由子のことやろ?」「2年の時から林君のこと好きらしいであの子」「林君が桃のこと好きやから嫌がらせに来たんやできっと」

 グループの女子達が早速情報を共有し合う。

 しかもまゆちんは来てないのに、まゆちんが嫌がらせした事になっているようだ。

 もしかするとあの三下の狙いはまゆちんと私の両方かも知れない。わざわざまゆちんの名前を出した事に悪意を感じた。

 三下のどちらか或いは両方が林君狙いなのかも。


 あくまでも個人的見解だが、自分に自信のない女は汚い手を使う。

 よく顔の可愛い娘は性格が悪いとか言うが、私は可愛い娘でそんなに性格の悪い子には会ったことがない。

 そもそも女の子の本当の可愛さは顔や形のことではないのだ。

 むしろ顔立ちに関係なく自分は可愛くないと勝手に思い込んでいる、男子に対して女として自信のない子の方が、信じられないような姑息な手段に出たりする。

 自分が絶対に悪者にならないよう周りへの対処も万全だ。

 他の子を盾にして、嘘っぱちの友情とか正義感と言う剣を振り翳し襲いかかってくる。

 自分は悪くないと思い込んでいるのもタチが悪い。こういうのとは闘ったとしてもどうにもならない。勝っても負けてもこっちが損をするからだ。

 相手にしない関わらないのが一番、逃げるが勝ちだ。


「え? 私に言うてたん、アレ?」

白々しくならない様に、ちょっと天然風を装ったキョトン顔。

「めっちゃ桃のこと見てたやん!絶対そうやで」

「えー いややー こわー マリちゃん今日一緒におってな」

グループで一番力のあるマリちゃんの腕に縋る。

 林君の話には持って行かせない。

何をどう言っても結局鼻持ちならない自慢と思われるからだ。

 例えば

「林君って私のこと好きなん?!」

と言えば、わかってるくせにーと笑って冷やかしながらも、コイツわかってるくせにシラこいねん(怒) だし、

「林君が私の事なんか好きな訳ないやん」

ならば、いやいや絶対そうやってー見てたらわかるもんと笑いながらも、コイツわかってるくせにシラこいねん(怒)だ。


 それよりもマリちゃんに頼るふりをしてべったりとスキンシップしておく。

「もー しゃーないなー 桃は甘えたすぎるねん」

とマリちゃんは頼られて満更でも無い顔をしてくれた。


 幼稚園、小学校と散々辛酸を舐めて来たのだ。良い加減学習した。やっと手に入れた女子のグループというやつ。どんな手を使っても死守せねば。

 女社会は村社会と同じだ。集合意識というのか、集団意識というのか。とにかく自分たちの集合体からはみ出した者は村八分にされる。

 独りでいるのは構わないが、学校というのはグループというものが重要になる。どこにも所属していないと結構厄介だ。何かというと班行動が主体の学校活動の際いつも面倒なことになった。


 四人きょうだいで六人家族の我が家が、私の小学校卒業と三つ年上の姉が中学を卒業するのを機に、同じ市内ではあるが一軒家に引っ越しする事になったのは好機だった。

 小学校の同級生が誰もいない中学に入学する事になったのを境に、私は女の子との付き合い方を学習し慎重に行動する様になった。

 なるべく敵を作らないように、出来てしまっても守ってもらえるよう徒党を組んだ。

 かかって来る敵は仕留めた。

 周りに反感を持たれない様、細心の注意を払って。


 昔読んだ漫画に書いてあった、

『切り札は最後まで見せるな、見せるなら更に奥の手を持て』をモットーに、なるべく天然を装い自分の可愛さにあまり頓着のない素振りを見せた。

 時にどん臭い振りをし、甘えたで一人では何も出来ないダメな女の子を演じた。

 都合の悪い事は鈍感な振りをして逃げた。

 返す刀で切り掛かる敵を倒し、笑いながら相手を丸め込み、時には逃走しながら少しずつ武器と装備と徒党を増やしていった。


 こうして私は毎日戦場に立ち続けた。

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