第2話 戦場 (幼稚園)

「ももちゃんはかわいいなー」


 カズくんはいつもそう言う。そう言われて自分はかわいいんだと思った。お父さんやお母さんに言われてはいたが、自分と同じ年頃の子に言われるのとは違う。

 桃は本当にかわいいんだと信じられた。


「ももちゃんはズルい!」

エリちゃんに言われた。

 カズくんは幼稚園に来るまでは近所のエリちゃんといつも一緒に遊んでいた。幼稚園に来たばかりの頃もエリちゃんはいつもカズくんと一緒にいた。

 カズくんが桃のそばに来るので、最初はいつも三人だったのに気がつくとエリちゃんはいなくなっていた。カズくんが桃の言うことばかり聞くから。


 外で遊ぼうとエリちゃんが言っても、カズくんは

「ももちゃんは?」と桃に聞く。

「絵本読んどく」桃が答えると

「じゃあボクも絵本読む」

エリちゃんは悔しそうに桃をにらむ。


 カズくんをにらめば良いのに……と思う。

 別にカズくんを誘ってない。カズくんと一緒にいたいわけでもない。なのにエリちゃんは桃に怒る。


「ももちゃんばっかり ズルい!」

「カズくんにいえばいいやん」

と言うと、エリちゃんに突き飛ばされた。幼稚園の先生が走ってくる。


「ももちゃんなんか だいきらい!!」

エリちゃんに嫌われた。何もしてないのに。


 カズくんはオロオロして「だいじょうぶ?」と泣きそうな顔をする。

 やられたのは桃なのに。桃は泣いてないのに。全部カズくんのせいなのに。カズくんがエリちゃんに冷たくするから。


「もうカズくんと遊ばへん」

 腹が立ってカズくんにそう言うと、カズくんは本当に泣き出した。

 お前が泣くな、とますます腹が立った。


カズくんと遊ばなくなってもエリちゃんは桃と仲良くしてくれなかった。カズくんはエリちゃんといつも一緒にいるようになった。


桃は毎日独りぼっちで絵本を読んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る