奴隷少女の斜め上な異世界戦線 ~魔法の枷のせいでクソハード~ [第一部完]
浅木A
プロローグ
「次のお披露目は、13歳の少女奴隷。番号41番、ご注目ください!」
競売人の声に、私は唾を飲んだ。
ついに、私も売られる番が来たか。
「おお、見た目はなかなか……」
「いや、聞いたぞ。あの奴隷、どこかおかしいらしい。近くにいると変な事がおきるとか……」
ざわめく買い手たち。
そう、私は元いた奴隷農園では「気味の悪い奴隷」と有名だった。
私には、誰にも言えない秘密があった。土の魔法が使えるのだ。まだ、目覚め始めたばかりだけど。
「では、この美しい奴隷少女、スタート価格1ゴールドから!」
競売人の声に手が上がろうとした、その時。
私は、顔を伏せたまま小さく笑った。
「クフフ……フハハ……ここが私に残された最後のチャンスだ」
小さく呟きながら顔を上げる。
会場が瞬時にして静まる。私は強い眼差しで周囲を見渡した。
そして、
「キエエエエッ! ククク……コイツを買うと死ぬゾ!」
金切り声をあげながら、体をガクガクと痙攣させた。
会場が騒然となる。
「な、なんだこいつ! 狂ったのか!?」
動揺する買い手たち。私はさらに畳みかける。
「ヤッホー! 私を買うと、この踊りが一生頭から離れないよ!」
そう言って、奇妙な踊りを始めた。
肘を顔の高さまでにあげ、肘から下をブラブラとさせながら、小刻みに前へと進む。
「うわっ、気持ち悪っ!」
「こいつ、完全にイカれてやがる……」
私は、不気味な歌まで口ずさみ始めた。
「買わないで、買わないで、買うと不幸になるよ♪ 頭の中でこの歌が、ずーっと流れ続けるよ♪」
そして、小石を手に取ると、競売台をコツコツと叩き始めた。すると、小石が増殖し、まるで生きているかのように競売台の上で踊り出す。
「ぎゃああ! 石が動いてる!」
「な、な、なにがおきてるんだ……」
「呪い……呪いだ!」
買い手たちは、恐怖に騒然となり、我先にと競売場から逃げ出していく。
「お、おい! 何をしている! 早くやめろ!」
競売人が私に近づこうとするが、踊る小石につまずいて派手に転んでしまう。
「チャンス!」
その隙に私は競売台から飛び降り、会場を駆け抜けた。
「誰か、あの化け物を捕まえろ!」
背後から聞こえてくる競売人の怒号。そんな怒号に対抗するように私はくるりと振り返り、後ろ向きに走りながら奇妙な踊りを披露する。
「呪われるゾ、呪われる。追ってきたら呪われるゾ♪」
お陰で私を追おうとしていた者の足も止まった。
私は再び踵を返してスピードをあげる。
「ああ、さようなら、奴隷の日々! これからは好きに生きるてやる!」
私は、高笑いしながら、森の中へと姿を消した。
これが、私の新たな人生の始まりだった。
◇◇
森を走りながら、私は自由の味を噛みしめていた。まさかあれほどうまく脱出できるとは思わなかったのだ。
これも土魔法と、前世の記憶のおかげだった。
「それにしてもあのダンス、思った以上に効果があったなー」
あの奇妙なダンス。あれは前世で見ていた動画配信サイトで「どんな猛獣でも、必ず怖がって逃げ出す」と有名なダンスだった。
人間に見せても有効だったらしい。
「奴隷なんて人間として見られてないからね。余計に気持ち悪かっただろうなー」
そう思うと、少しだけ笑いたくなってくる。
この世界の魔法は、王侯貴族たちしか使えない。だからこそ奴隷が魔法を使うなんて考えもしない。そのため呪いだと思ったのだろう。
けれども私は直近で土魔法に目覚めていた。
「けど、なんで私だけ魔法を使えるんだろう……?」
魔法を使える奴隷なんて、この世界の常識を覆す存在だ。バレてしまえば、胸にある「奴隷印」に服従魔法をかけられ、いいように使われるだけだろう。
だから私は、ずっと魔法が使えることを隠していた。けれどもそれも、今日で終わりだ。
「奴隷農園にいた頃は、あんまり試すことができなかったからなぁ」
私は手は自分の手を見つめながら、考えを巡らす。
「そういえば魔法って、呪文で効果が変わるんだろうか」
前世で見ていたファンタジーなマンガやアニメでは、呪文によって魔法の効果が変わるのが定番だった。
ただ今までの私は、バレないように口元で小さく「土さん、助けて」と呟くので精一杯だった。
だから一人になった今こそ、様々な呪文を試す時だ。
「よし、では早速……大地よ、私の願いを叶えて!」
手をかざし、適当な言葉を口にしてみる。
けれどもなぜか、何も起こらない。
「我に力を!」「大地の精霊よ、我が言葉に従え!」
色々言葉を変えてみても何も起こらない。これなら「土さん助けて」の方が効いていた。
首をひねりながら、ふと、あることを思いついた。
「そういえば前世のゲームで、呪文の最後に「ぴょん」って付けると効果が上がる話があったっけ」
早速試してみることに。
「大地よ、私の願いを叶えてぴょん!」
すると、小さな土の塊が跳ねるように現れた。
「えぇっ!? 効果あり?」
正直、自分でやっててちょっと引いた。
けれど、すぐに調子に乗って、次々と呪文に「ぴょん」を付けていく。
「大地の精霊よ、我が言葉に従えぴょん!」「土の女神よ、私にご加護をぴょん!」
そのたびに、土が跳ねたり、回転したりと、不思議な動きを見せる。
いろいろと試してみた結果、自分の中で曖昧なイメージのまま言葉を発しても、発動しないことが分かった。ぴょんは、自然と土が跳ねるイメージが伴ったので発動したのだろう。
「ぴょんがキーって訳じゃなかったか。ちょっとだけ、いや、だいぶ助かった……」
言葉より、イメージの方が大事なのだろう。
確か、初めて土魔法を発動したときにも、強いイメージを描いていた。あの時は、亡くなった仲間たちを土に還してあげたいと、強く願っていたのだ。
今から少し前、私がいた奴隷農園で伝染病が発生した。
感染を恐れての事だろう、私たち奴隷の宿舎は物理的に封鎖された。
封鎖された空間の中で、仲間たちはパニックを起こしなが次々と死んでいった。そんな中、前世の感染予防の知識があった私だけが最後まで生き残った。
それで気味悪がられ、ここに売られてきたのだ。
その時の仲間たちの死に顔が脳裏によぎる。胸が締め付けられて足を止めたくなるが、ここで立ち止まっては、奴隷として搾取されたことを最後に死ぬだけだ。
だったらせめて、死ぬまでにやりたいことがある。
……世界は、私たちを踏みにじってきた。だから、少しくらい世界にやり返してもいいんじゃないだろうか。一人くらいそんな奴隷がいてもいいはずだ。
そう思ったのだ。
私は、悪党、そう、アウトローとして生きていくことを目標にしたのだ。
「そのためにも、まずは一人で生きていく術を身につけないと」
生きていくことすらできないようでは、話がはじまらない。
ただ、私には、
「土魔法があるし!」
そう呟きながら、土魔法を発動させる。
瞬間。
亡き仲間たちを墓穴に埋葬した時の事を思い浮かべていたからだろう。意図せず私の足元に穴が生じて、私はその穴に落ちていった。
我ながら、自分の墓穴を掘るとはこのことだと実感した。
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