第3話 わりとピンチな人類側
その後、なんとか立ち直った聡にカトリーナ王女は頭を深々と下げて謝罪し、隠していたことを包み隠さず自白し始めた。
まず予想通り、この場所は地球のある世界とはまた異なる世界であり、聡は現在進行形で人類を滅ぼそうとしている魔王を討伐するための勇者として、彼女に召喚されたのだという。
そこまではすでに察していた聡は、その話をすぐに受け入れ先を促す。
すると、聡を召喚するに至った経緯が語られた。
彼女によると、魔王と呼ばれるその存在が現れたのは、三年ほど前の事だったらしい。
その日、大陸を支配する三つの国々が定期的に提携して行っている国際会議に堂々と侵入した魔王は、人類の最高権力者達に対してある宣言を出した。
「それが
「人類完全管理……物騒ですね」
魔王曰く、人類はこの世界で最も劣った生物なのだそうだ。
他の生物に比べて生存能力が低く、唯一他の生物に勝ることができる知能の高さも碌に機能せず、多くの人間たちが内輪もめで死んでいく。
この宣言は、そのような愚か者達を憂いた魔王が人類に与えた最大の御慈悲である……というのが、魔王側の見解なのだそうだ。
しかし、その内容は名前の響きからも分かる通り慈悲の欠片もないものであった。
もしこの宣言に同意すると、人類は特定の仕事に強制就労させられ、食事や睡眠なども含めた全ての行動を常に管理されるようになる。
また、人類の総数を一定に保つため定期的に
完全に家畜扱いだ。
勿論そのような宣言を吞めるはずがない。
君主達はこの宣言を戯言と断じ、魔王の提案を一蹴。
それに怒り狂った魔王は宣言を撤回し、人類の殲滅を目標と定め侵攻を開始した。
「現在魔王は、
魔物とは、通常の動物より身体能力が高い生物の総称である。
魔王が侵攻を開始するのと同時期に存在が確認されたことや、魔王軍に従っていない野生の個体がいまだ確認されていないことから、この前代未聞の生物は、魔王が作り出しているのではないかと推測されている。
そして魔王側についた一部の亜人……総括して
彼らはあまり戦場に出てこないため、今もなお謎の多い存在なのだとか。
「彼らの戦術は、魔物による無計画な物量作戦のみです。魔人が加わると多少連携するような動きを見せますが、根幹は変わらないのでこれまで何とか耐え続けることができました。ですが――」
「もうこれ以上は持ちこたえられなくなったということですね?」
「はい……」
カトリーナ王女は痛ましげに顔を俯ける。
主要な都市や町には、魔王軍を退けるための装備や人材が、潤沢とまでは言わないが必要最低限揃っている。
しかし、地方の村や集落にそのようなものがあるはずがない。
せいぜい中級の魔物を辛うじて撃退できるレベルの狩人が数名いるだけである。
よって魔王軍はいつからか、しぶとく粘り続ける主要都市ではなく、簡単に潰すことができ、なおかつ、食料の生産地である農村へ狙いを変えた。
要は、大規模な兵糧攻めを行われたのである。
「さらに魔王軍は家や倉庫、畑を破壊するばかりで村の住人たちは殆ど殺さず、あっさりと見逃したそうです」
もちろんそれは慈悲などではない。
食料の生産量が減っていくにも関わらず、食い扶持が減らないのだ。
これにより、飢えが広まる速度が加速するのは明白である。
今はまだそれが始まったばかりなのだそうだが、これ以上はジリ貧になると王達は判断し、封印されていた、この国の王家に代々伝わる勇者召喚の魔法陣を使用を決定。
そして、聡が喚びだされたのだそうだ。
「とりあえず事情は分かりましたけど……これ、誘拐されて奴隷にされるのと同じようなものですからね?」
「本当に、申し訳ございません……!」
聡に刺々しい言葉で責められた王女様が、涙目で小さくなった。
その姿を目にして少しだけ気が晴れた聡はコホンと小さく咳ばらいをすると、カトリーナ王女に声をかける。
「それで、僕はこれからどうすれば?」
「……ご助力願えるのですか?」
「僕に出来る範囲まで、ですが」
てっきり諦めていたのだろう。
涙を潤ませ首を傾げるカトリーナ王女に、内心照れながら苦笑する。
いきなり攫われ、戦争の道具として扱われそうになっている現状に不満が無いわけではないが、そもそも聡にはそれ以外の選択肢が無いのだ。
もし今の段階で話を蹴ると、日本に帰るどころか命が危うい。
生き延びるにはこの国に従順に従い、信用を得ていくしかないのだ。
「あ、ありがとうございます!……ではサトル様、私に着いてきてください。国王様がお待ちになられています」
「分かりました」
目元をハンカチでゴシゴシと拭ったカトリーナ王女は、回れ右をして迷いのない足取りで闇の中へ歩き始めた。
聡もその背中を追っていく。
それからしばらくの間、幾つかの扉を潜り抜け、階段を上り、やたら分かれ道の多い迷路のような通路を通り過ぎる。
そうして歩き続ける事約二十分。聡は国王の待つ王座の間にたどり着いた。
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