色命遊戯

虎龍凛

『春峰』序

「――通達」


 秋の夕暮れ、川底へ仄かに届く陽の光。そんな冷たくも温かな奇妙な声音。どこか郷愁をも感じさせる心地良さ。


「この世界は、間も無く終わりを告げる」


 終わりを告げる、と無慈悲に言い放つ、西日を背負って立つ其の男は続ける。徐々に目が慣れたのか、影がその形を露わにする。


「あ……」


 一つ、喉から声にならない言葉がまろび出る。

 美しい瞳と、美しい顔をした青年が眼前で跪いている。その容貌に自覚がないのか、はたまた無頓着なのか。仰々しく言い放たれる言の葉達に反して、身にまとう狩衣の様な、見たことも無い繊細な装束はどこか頼り無くよれている。そのせいでもあるのか、本来近寄りがたさを感じる容貌が、春峰に宿った親近感を以って、輪郭を帯び始める。


「此れは最終決定事項であり、覆る事はない」


 先刻、この美麗な男は仰々しく宣う。

 理解が追いつかない春峰を、丁寧に磨った墨を流し込んだかの様な美しい瞳が捉える。黒紅色の瞳をした奇妙な装束の青年は、情けなく尻餅をついた状態の春峰を気にする様子もなく、その薄い唇を開く。


「きみに拒否権はない。ただし、この契約は互いにとって益、不益が平等に敷かれたものであり、対象に優劣の差はない」


 嘆息。男が小さく息を溢す。


「俺はきみを、この物語の記録者として選定する」

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