第2話 国替え
空想時代小説
九戸攻めが終わると、葛西・大崎一揆と和賀の乱が起きた。登米の寺池城にいた木村吉清親子が重税を課し、葛西・大崎の旧臣を中心とした一揆勢が襲いかかったのである。旧知の城なので、城攻めは一揆勢の勝ちとなり、木村吉清親子は隣の佐沼城にこもってしまった。同時期に南部領の和賀郡においても和賀氏の乱が起きた。どちらも改易された勢力の反抗だ。蒲生氏郷が討伐に向かったが、雪の中の戦いで苦戦し、中新田・名生城にこもってしまった。そこで、太閤から政宗に一揆討伐の命がくだり、政宗は木村親子を救いだしたのである。
ところが、ここでケチがついた。蒲生が、この乱は全て政宗が起こしたものだという訴えを起こし、その証拠である書き付けを持っているというのである。その上、成実に氏郷を迎えに中新田・名生城まで来いという命がくだった。またまた道案内という名目の人質である。正月だというのに、成実は氏郷一行を会津へ送り届けた。もっとも氏郷の後方に詰めていただけであるが・・・。
政宗には上洛の命が下っていた。成実が米沢にもどると、また留守居を命じられた。政宗に何かあれば、成実が指揮をとって蒲生の会津を攻めなければならない。成実は目立たぬように支度をしておくように家臣に耳打ちをした。
政宗は、太閤の前で蒲生と対峙し、一揆勢にだした書き付けの中の花押であるセキレイの目に穴があいていないのは、偽文書という訴えをだした。書いたのは、先日脱藩した某ということも申し出た。氏郷は頑として認めなかったが、論破の仕方は政宗が上だったので、太閤は政宗の訴えを認めた。
「政宗殿、貴公の訴え、ようわかった。今回の件、不問とする。ただし、一揆の後始末をしっかりせよ」
訴えは認められ、政宗の命はまたつながったが、一揆勢討伐の命が下ったのは苦渋の結果であった。こういうこともあろうかと、目があいていないセキレイの書き付けを一揆勢に渡していたのは政宗本人だったからである。
5月に米沢にもどると、早速一揆討伐に出かけた。成実も同行したが、政宗の鬼畜ぶりは異様であった。宮崎城を攻めた時に、先鋒の成実に城主が降伏を願い出たが、政宗はこれを認めず徹底した城攻めを行った。今までは降伏を申し出た者は、認めていた政宗だったが、今回は太閤の命であり、手を抜けば政宗自身が疑われることになる。鬼畜になるのも無理のないことであった。
一揆討伐が終わると、とんでもない命が政宗に下された。国替えである。米沢を召し上げられ、葛西・大崎の旧領のほとんどを与えられることになった。知行高は増えるが、新しい土地で暮らさなければならない。城も建てなければならず、出費は増すばかりだった。新しい土地は岩出山である。大崎平野の西側の隅で三方をがけに囲まれている要害の地に城を建てることになった。政宗がその地に行ってみると、そこには家康がいた。
「政宗殿、この度は難儀でしたな」
「家康殿、いつもお世話さまでございます。先日の上洛の際にも太閤様にお口添えいただいたとのこと。まことにありがとうございます」
「なんの、なんの。太閤様にとって、貴公が必要ということじゃ。今後も精進して励まれよ。さて、城のなわばりはしておいた。いい城を造られよ」
「ははっ、ありがたき幸せ」
とは言いつつも敵になるかもしれない人間に自分の城のなわばりを作られたのではたまらないと思う政宗であった。それと後日談であるが、氏郷は太閤の側近だったが、頭脳明晰で野心家だった。それをおそれた太閤が、畿内の領地を取り上げ、辺境ともいえる会津へ転封したわけである。氏郷は畿内へもどれぬことを悲観し、間もなく病死してしまう。氏郷の後の会津には上杉家がやってくるのだ。
この年、成実は福島の大森城から角田城に移った。平山城から平城への移転である。宿敵相馬氏の地に近いので、守りを固めなければならず、水路を巧みに通し堀とした。これで、相馬氏の騎馬勢力は防げる。しかし、落ち着く間もなく、翌年の正月明けには朝鮮に出兵することになった。途中、京都に寄ると、仙台勢は派手な衣装で京都人から注目を浴びた。この派手な衣装を太閤がいたく喜んだようで、仙台勢は1年ほど肥前名護屋で逗留した。成実にとっては、退屈な1年となっていた。
「太閤の気まぐれに付き合わされているのは、つまらん」
とぼやく日々であった。
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