第2話 二人っきりなのに、先輩は無防備すぎる!

 夏と言えば、海だろう。


 その海には、水着が似合うのは、言わずともわかる事だ。


 美月先輩と一緒に海に行けたら、絶対に楽しいだろうなぁ……。




 大野裕翔おおの/ゆうとが付き合いたいと思っている人が今、視界の先にいるのだ。


 ソファに座っている彼女は髪を触っている。

 手入れするかのように、髪をまとめ、再びシュシュで縛っていた。


 先輩の仕草自体が、裕翔の心を刺激する。


 無防備な姿を晒す先輩が魅力的に、瞳に映るのだ。


 本当にこんな美人な人と付き合えるのだろうか。

 いや、絶対に付き合ってみせる。


 こんなところで弱音をはいてはダメだと思う。


 裕翔は生徒会室にて、そう心の中で意気込んでいた。

 今年中に彼女を作るという目的は、何が何でも成し遂げてみるつもりだ。




 裕翔は、夏川美月なつかわ/みつき先輩と色々なことをしているシーンを妄想してしまう。


 なんせ、先輩は爆乳なのだ。


 途轍もなくデカい。

 それは制服の上からでもわかるほどの大きさであり、大方、男子生徒なら一度は揉んでみたいと思うだろう。


 学園の男子生徒が憧れているスタイルを持つ先輩と二人っきり。


 爆乳な生徒会長といるのに、妄想しない方が難しいと思う。


 でも……変なことばかり考えていると、先輩から嫌われるよな。


 もう少し、誠実にならないと――


 裕翔は咳払いをして、気分を入れ替えた。






「どうしたの? 夏風邪?」

「え、いいえ、違いますね。なんでもないので、お気になさらずに」


 ソファに座って、対面上にいる夏川先輩に対し、裕翔は紳士に対応する。


「そう? ならいいけど。それにしても暑いわね」


 ソファに座っている先輩は扇子で仰ぎながら、室内の窓の外へ視線を向けていた。


 裕翔も視線を窓の外へ向ける。




 夏川先輩は海に行きたいと思っているのかな。


 海じゃなくても、攻めてプールでもいい。


 先輩の水着姿。


 絶対に、谷間がハッキリと見えるだろう。


 今年の水着コンテストでは、裕翔は多くの男子生徒の後ろにいて、近くで先輩の水着姿をハッキリと見たことなんてなかったのだ。




「そうだ、何か飲む?」

「な、何をですか?」


 裕翔は夏川先輩のおっぱいの事ばかり考えていて。先輩からの飲む発言により、より一層卑猥な感じに解釈してしまっていた。


「さっきから大丈夫? そんなに驚いて」

「は、はい、大丈夫です……」


 裕翔は気まずげに頷いた。


「まあ、手伝ってもらうことになったし、少しサービスしておこうと思ってね。なんのジュースがいい? なんでもいいなら私が選んでくるけど」


 先輩はソファから立ち上がる。


「ジュース……んん、なんでもないです」


 裕翔は先輩から再び視線を逸らす。

 一瞬、変な単語が口から出そうになっていた。


 裕翔は首を振って、卑猥な感情を誤魔化す。

 彼女の方ばかり見ていると、自分が妄想していた内容に押しつぶされてしまいそうになる。


 ここで、変な失態を犯すわけにはいかない。


 裕翔が変なことを考えている時には、すでに先輩は室内にある冷蔵庫へ向かっていた。






「麦茶しかないの? あーあ、買い忘れしちゃってたか……、ねえ、麦茶しかないけど、これでいい?」

「は、はい。なんでも大丈夫なので」


 裕翔は振り向いて、返事をする。


「おっけー、じゃ、麦茶ね」


 夏川先輩は冷蔵庫近くのテーブルに二つコップを置き、取り出した麦茶のペットボトルを注いでいた。


 先輩の足音が近づいてきて。

 その二つあるコップの一つを、優斗に渡してきた。


 今度は、裕翔がいるソファの隣に座る。




「今はさ、朝だし。そろそろ、HRが始まるじゃん」

「は、はい……そうですね」


 室内の壁に取り付けられた時計を見やると、その針は八時二〇分を示していた。


「今は、何をするにしても時間がないし。今日の放課後って何かある? 予定とか入っていないなら、もう一度来てほしいんだけど」

「放課後……」


 スケジュール的に問題はなかったかと、考え込む。が、そこまで重要なことはなかったと、自分の中で結論付けた。


 そもそも、部活もしていない裕翔の放課後なんて、暇を持て余しているくらいなのだ。


「はいッ、大丈夫です。では、放課後ですね」

「ええ。よろしくね」


 夏川先輩からウインクされた。

 誘惑されているかのようで、心臓の鼓動がさらに加速し始める。


 近距離でのやり取りは、まだ彼女のいない裕翔にとって刺激的なシチュエーションだった。






 やっと、放課後になった。

 本題はこれからだ。

 気合を入れて挑もうと思う。


 戦場に向かう者のように、裕翔は意気込んで教室を後にしようとする。

 向かう先は、夏川先輩がいる生徒会室。




 室内に入ると、朝と同じく先輩一人だけだった。


「お疲れ様です。他の人は?」

「他の仕事があるのよ。夏休み近いし、やることがたくさんあるってこと」

「そ、そうなんですね」


 やることが多い?

 どういったことをやることになるのだろうか。


「まあ、一先ず、この教室を掃除してくれない?」

「掃除……?」

「そうね。先生からも言われるのよ。早く掃除しなさいって」


 よくよく辺りを見渡せば、埃が多い。


「先生の言う事もしないといけないから大変なのよ。私一人でやらないといけないし。どうしても猫の手も借りたくてさ」

「大変ですね、生徒会って」

「そうなんだよねー、あとこれ、箒ね。一緒にやろ。私もやるからさ」




 暑い時期に掃除か。


 掃除するため、一度クーラーを止め、窓を全開にする。


 物凄く暑い。


 肌にそれが重点的に伝わってくるのだ。




「そうだ、今日は早く掃除終わらせてさ。どっかに行かない?」

「どこにですか?」

「どこでもいいよ。街中でもいいし、ゲーセンでもさ」

「どこでも?」

「そうよ」


 どこでもといわれると、変なことが脳内を駆け巡る。

 しかも、近くには、爆乳な先輩がいる。

 その爆乳に圧倒され、裕翔の視線の全てを奪うかのようだ。


「どこがいい? そうだ、海とかに行くっていう事ならさ、水着を見に行かない?」

「み、水着、ですか?」

「もしかして、嫌?」

「ぜ、全然、そんなことはないですから。むしろ」

「むしろ?」

「えっと……行かせてもらいます。ど、同行したいですッ」

「そう、じゃあ、早く掃除を終わらせないとね」


 先輩は箒を使って、室内の端っこの方から掃き掃除を始めていた。




 まさか、こんなにもトントン拍子に物事が進んでいくとは思ってもみなかった。


 これは本当に早い段階で、美月先輩と恋人同士に?


 箒をグッと握り締め、裕翔はそんな期待に胸を膨らませていたのだった。

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