第3話 水着専門店で、俺は⁉

 夏川美月なつかわ/みつき先輩のおっぱいはデカい。


 それは本当である。


 目先にいる先輩は水着姿になっていた。




「どうかな? 着替えてみたんだけど」


 目の前にいる先輩は制服姿よりも際どい恰好で、大野裕翔おおの/ゆうとに問いかけてくる。


 誘惑するかのような美貌を持ち合わせる先輩のスタイルに、裕翔の視線がくぎ付けになっていた。


「い、いいと思いますよ」


 裕翔は視線を逸らしてしまう。


 やはり、刺激が強すぎると思った。


 先輩はそこまで気にはしていないようだが、さすがに、爆乳にビキニの水着は、大方の男子の感性を狂わせるだろう。




「別のもあるんだけどさ、何がいいかな?」


 夏川先輩は水後姿のまま、両手には異なる水着を持ち、見せつけてくる。


 右の方は、シンプルな黒色のビキニ。

 左の方は、マイクロビキニであり、今、先輩が着用しているビキニよりも、さらに布の面積が小さいものだ。


 どちらも過激すぎると思った。


 目のやり場に困るというか。左右に目を向けても、際どい水着。正面を見たら、先輩の谷間がハッキリとわかるほどのビキニ姿が、瞳を通じて裕翔の感性を刺激するのだ。


「ど、どちらでもいいと思いますけど……」


 裕翔は選べず、緊張のあまり俯きがちになってしまう。






 先ほど生徒会室の掃除が終わり、先輩と街中にある水着専門店に足を運んでいたのだ。


 一応、夏休み期間中に海か、プールのどちらかに行くことになり、どんな水着がいいか選んでいる最中だった。


 今の時期は、女性の割合が多い。カップルの人もチラホラと見かけたが、正式な恋人がいたことのない裕翔にとって、羞恥心を物凄く刺激されていたのだ。


 なんて、対応をすればいいのか。そういった大人の男性のような度胸や余裕はまだ持ち合わせていないのだ。


「えー、もっと私に興味を持ってもいいじゃん!」

「え……⁉ そ、それはどういう意味でしょうか……?」


 裕翔はドキッとし、夏川先輩の悪戯っぽい表情を見ると、脳内が混乱する。

 正常な判断が出来なくなるほどに、戸惑う。


「だって、これから色々とやってもらうんだしさ。サービスしておこうと思って」

「サービスですか……」


 サービスだとしても、見ている側の方が気恥ずかしく感じてくる。


「ねえ、どっちがいいかな?」


 先輩は再び、水着を見せてくる。


 どちらがいいとか。

 そもそも、先輩はどんな水着を身に着けても似合うと思う。


「そちらの右側の方で」


 裕翔はシンプルな方を選ぶ。

 布面積の少ない方を見てみたいが、そういった度胸はなかった。


「こっち?」

「……はい」

「じゃ、着てみるね♡」


 先輩はそう言って、試着室のカーテンの中へ姿を消す。


 それにしても、この水着専門店にいると思うと、場違い感が半端なく。なおさら、ドキドキが止まらなかった。


 デカかったな……。


 先輩の水着姿を、近距離で見ているのは、実質自分だけかもしれない。


 でも、さっきはハッキリとは見れなかった。


 恥ずかしさが勝ってしまい、自分の心にブレーキがかかり、瞳の裏側にまで焼き付けることが出来なかったのだ。


 美月先輩の恋人になるなら、せめて、先輩の姿を正面から見られるようにならないとな。


 そういう度胸がないと、先輩と長時間いる事なんて難しいだろう。






 周りからの視線が怖い。


 先ほどから店内にいるお客の女の子の視線や、女性店員の視線が背に向けられている気がするからだ。


 勝手な思い込みかもしれないが、今、振り返る事なんてできなかった。


 嫌な予感しかしないんだよな……。




「あ、あんた、なんで、こんなところにいるのよ」


 刹那――

 それは背後から聞こえる。


 嫌味な口調が特徴的。振り返りたくはなかったが、背後から彼女に何かされても嫌だった。


 恐る恐る振り向く。


 視線の先には、丁度入店したばかりらしい、幼馴染の伊藤佐奈いとう/さなの姿があったのだ。


「まさか、童貞を拗らせすぎて、あんた一人でここにいるってこと」


 彼女は近づいてくる。


「ち、違うから」

「じゃあ、何よ。それ以外に何かあるわけ?」

「あ、あるよ……」


 裕翔は彼女を前に自信がなくなり、小声になってしまう。


「だったら、なに?」

「一緒に来ている人がいるから」

「い、一緒に⁉ だ、誰よ!」


 目の前にいる佐奈から睨まれた。


「先輩と」

「せ、先輩って⁉ 誰、男性、女性どっち⁉」

「どちらもいいだろ……」

「い、いいわけじゃないないッ!」

「なんで?」

「べ、別に、なんでもないけど。い、一応、気になっただけ。た、ただ、それだけだから。勘違いしないでくれない?」


 一体、何なんだ、こいつは……。


 面倒な幼馴染を持ってしまうと、会話するだけでも凄く神経擦り減っていくようだ。




「それで、どっちなの?」

「それは――」


 裕翔が口を開こうとした時、背後の試着室のカーテンが全開する。


 そこから爆乳で水着姿の夏川先輩が出現したのだ。


 先輩のいきなりの登場に、幼馴染は顔を真っ赤にしていた。


「あ、あんたって、生徒会長と付き合ってんの?」

「え、い、いや、それは……」


 なんて対応すればいいのかわからず、口ごもってしまう。


 すると、背後から先輩が抱きついてきて。


「そうよ。私、この子と今日から付き合い始めたの。あなたって、二年の子よね?」


 先輩はテンションを上げたまま、会話に交じってくる。


 と、同時に、先輩の豊満なおっぱいが、裕翔の背中全体を誘惑する。


 接触してわかる。

 やはり、先輩のおっぱいはデカいのだと。




「あなたって、裕翔の友達?」

「べ、別に友達じゃないけど……何となく関わりがあるだけ。それ以外、なんでもないわ」


 佐奈はそっぽを向いて、ぶっきら棒な口調になる。


「そう、なら。私が、この子と親しくしても問題ないわね」

「え、え、そ、そうよ。私には関係ないし。す、好きにしたらいいじゃないッ」


 幼馴染は顔を真っ赤にしたまま、年上の先輩に対しても臆することなく、強気な口調で言い放っていた。


 彼女は腕組をし、その後で、裕翔の方を睨みつけていたのだ。


 な、なに?

 俺、何かしたのか?




 そして今まさに、裕翔は先輩のおっぱいを背で感じている。


 幼馴染からは喧嘩腰の態度を見せられ、途轍もなく複雑な心境に陥っていた。




 俺の人生、どうなるんだろ……。


 夏休み前から、絶望と希望の狭間の空間に閉じ込められてしまった気分だった。

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