狼人間と狩人
くれは
この二人は十年後に結婚します。
人に紛れて暮らす
しかし、人もただ喰われるだけではない。狼人間と戦い、殺す者たちが現れた。
その戦いは、ずっと、続いていた。
クラウスは
もう少し子供の頃は父親と一緒に
そこからは、ずっと一人で
人々から幾ばくかの謝礼をもらい、また次の土地へゆく。
そうやって暮らしてきた。きっと父親のように
それ以外の生き方を知らないのだった。
エーリカは
もう少し子供の頃には別の村で両親と暮らしていたが、あるとき
エーリカは両親に逃がされて、必死で走った。
それからずっと一人で、
孤児の子供に冷たい村も、優しい村もあった。けれど、どんな場所も
その度にエーリカは逃げ出して、見知らぬ土地まで走るのだ。
エーリカはそれ以外の生き方を知らなかった。そうでなければ、両親のように撃たれるだけなのだから。
クラウスがその村を訪れたとき、その耳がか細い女の悲鳴を拾った。
村の外れにある黒々とした森の入り口まで行けば、若い男たちが数人集まっていた。一人の女を囲んで、下卑た笑みを浮かべている。女は泣いている様子だった。
わざとらしく足音を立ててクラウスが近づく。と、男たちは振り返り、クラウスの姿を見て舌打ちした。
「
悪態にも怯まずに、クラウスは男たちに近づいて行った。
「森には狼が出るぞ」
クラウスの声に、男たちは興ざめした様子でその場から離れて行った。
残された女の傍に立てば、女はぎくりとした様子でクラウスを見上げた。
「
見開かれた瞳は涙で濡れていた。それが、エーリカだった。
最初、小さな村で、エーリカは穏やかに迎え入れられたかに見えた。
身寄りがなく、事情で住む家を失くして、暮らしていける場所を探している。本当のことが言えないエーリカのことを、村長はその家の仕事を手伝うことを条件に、住まわせてくれた。
けれど、村長の息子が、村の若者たちと一緒にエーリカにちょっかいを出すようになった。
世話になっているエーリカは、息子たちに何も言い返せない。
そしてある日、息子たちはエーリカを村の外れにある黒々とした森の入り口に連れて行った。そこで、エーリカを木に押し付けて体の自由を奪った。
これから何をされるのかと、エーリカは怯えて泣いた。若者たちは下卑た笑いを浮かべた。
そこにやってきたのが
邪魔者の登場に若者たちは逃げ出した。エーリカも逃げ出したかったが、足が震えてうまく走れそうになかった。
きっとわたしは殺されるのだと、エーリカはがたがたと震えた。
クラウスは戸惑った。
目の前にいるエーリカが、
喰い殺してしまえば良いだろうに。なぜそうしなかったのか。
そして今、エーリカは
今すぐにでも殺されるのだろうと覚悟を決めた顔で、両手を組んで祈るような姿勢で、ぎゅっと目を閉じていた。その
「おまえは……」
声を出してはみたが、クラウスはそれ以上、何を言えば良いかわからなかった。
エーリカはクラウスに見つかって、自分の生がここまでなのだと、諦めた。
自分はこの
両親に逃してもらったけれど、それも仕方ないのかもしれない。エーリカは両手を組んで、そのときを待った。
──この二人は十年後に結婚します。
狼人間と狩人 くれは @kurehaa
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