狼人間と狩人

くれは

この二人は十年後に結婚します。

 人に紛れて暮らす狼人間ワーウルフ。彼らは普段は善良な人間の振りをして、そして夜になれば隣人を襲い、喰い殺すのだと言われていた。

 しかし、人もただ喰われるだけではない。狼人間と戦い、殺す者たちが現れた。狩人ハンターと呼ばれる者たちは、そうやって狼人間を狩る。

 狼人間ワーウルフ狩人ハンターを喰い殺すこともある。狩人ハンター狼人間ワーウルフを狩ることもある。

 その戦いは、ずっと、続いていた。


 クラウスは狩人ハンターだった。クラウスの父親も狩人ハンターだった。

 もう少し子供の頃は父親と一緒に狼人間ワーウルフを狩っていたが、あるとき、父親は喰い殺されてしまった。

 そこからは、ずっと一人で狼人間ワーウルフを狩る日々だった。町や村を巡って、隠れている狼人間ワーウルフを探し、引っ張り出し、自慢の銃に銀の弾丸を詰めて殺す。

 人々から幾ばくかの謝礼をもらい、また次の土地へゆく。

 そうやって暮らしてきた。きっと父親のように狼人間ワーウルフに喰い殺されるまで、そうやって生きてゆくのだと思っていた。

 それ以外の生き方を知らないのだった。


 エーリカは狼人間ワーウルフだった。一人で生きている。

 もう少し子供の頃には別の村で両親と暮らしていたが、あるとき狩人ハンターがきて、両親は撃たれて殺されてしまった。

 エーリカは両親に逃がされて、必死で走った。

 それからずっと一人で、狩人ハンターに見つからないように、怯えて暮らしていた。

 孤児の子供に冷たい村も、優しい村もあった。けれど、どんな場所も狩人ハンターがきたらおしまいだった。

 その度にエーリカは逃げ出して、見知らぬ土地まで走るのだ。

 エーリカはそれ以外の生き方を知らなかった。そうでなければ、両親のように撃たれるだけなのだから。


 クラウスがその村を訪れたとき、その耳がか細い女の悲鳴を拾った。

 村の外れにある黒々とした森の入り口まで行けば、若い男たちが数人集まっていた。一人の女を囲んで、下卑た笑みを浮かべている。女は泣いている様子だった。

 わざとらしく足音を立ててクラウスが近づく。と、男たちは振り返り、クラウスの姿を見て舌打ちした。

狩人ハンターかよ」

 悪態にも怯まずに、クラウスは男たちに近づいて行った。

「森には狼が出るぞ」

 クラウスの声に、男たちは興ざめした様子でその場から離れて行った。

 残された女の傍に立てば、女はぎくりとした様子でクラウスを見上げた。

狩人ハンター……」

 見開かれた瞳は涙で濡れていた。それが、エーリカだった。


 最初、小さな村で、エーリカは穏やかに迎え入れられたかに見えた。

 身寄りがなく、事情で住む家を失くして、暮らしていける場所を探している。本当のことが言えないエーリカのことを、村長はその家の仕事を手伝うことを条件に、住まわせてくれた。

 けれど、村長の息子が、村の若者たちと一緒にエーリカにちょっかいを出すようになった。

 世話になっているエーリカは、息子たちに何も言い返せない。

 そしてある日、息子たちはエーリカを村の外れにある黒々とした森の入り口に連れて行った。そこで、エーリカを木に押し付けて体の自由を奪った。

 これから何をされるのかと、エーリカは怯えて泣いた。若者たちは下卑た笑いを浮かべた。

 そこにやってきたのが狩人ハンターのクラウスだった。

 邪魔者の登場に若者たちは逃げ出した。エーリカも逃げ出したかったが、足が震えてうまく走れそうになかった。

 きっとわたしは殺されるのだと、エーリカはがたがたと震えた。


 クラウスは戸惑った。

 目の前にいるエーリカが、狼人間ワーウルフだったから。けれど、この狼人間ワーウルフは人を襲うどころか、若者たちに襲われて泣いていた。

 喰い殺してしまえば良いだろうに。なぜそうしなかったのか。

 そして今、エーリカは狩人ハンターの自分を前に、震えている。

 今すぐにでも殺されるのだろうと覚悟を決めた顔で、両手を組んで祈るような姿勢で、ぎゅっと目を閉じていた。そのまなじりから涙がこぼれている。

「おまえは……」

 声を出してはみたが、クラウスはそれ以上、何を言えば良いかわからなかった。


 エーリカはクラウスに見つかって、自分の生がここまでなのだと、諦めた。

 自分はこの狩人ハンターに銀の弾丸で撃たれて殺されるのだと。

 両親に逃してもらったけれど、それも仕方ないのかもしれない。エーリカは両手を組んで、そのときを待った。




 ──この二人は十年後に結婚します。

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狼人間と狩人 くれは @kurehaa

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