「無題」   深山波瑠




 私はただ孤独を噛み締めるばかりでした。

 私の涙は雨に溶けていきました。


 大好きな人の名前を呼びました。

 彼女を模るように、必死に。

 どうして真っ黒な制服なんか着なくてはならないのでしょう。

 ベールが無理でも、青いスカートなら着られたのに。


 考えれば考えるほど辛くて、どうしようもない喪失感に溺れました。

 いつもは上手い言い回しが思い浮かぶはずなのに、私の口からは嗚咽が漏れるばかりで。

 彼女が遺した最期の言葉は、パソコンの中の小説でした。



 呆気なく自動車に飛ばされた身体は、もう呼吸を忘れてしまったのです。

 あまりにもやるせなくて、かなしくて、くるしくて。

 私は、ほんとうに、ほんとうに。

 どうしようもないくらい、彼女のことが、すきでした。


 恋愛小説が書けたんだ、と彼女は言いました。

 人間と天使の恋の話だ、と。



 

……でも、言葉なんかでこの感情が表せるわけないのです。

 私の喜悦が。慟哭が。苦悩が。慈愛が。


 言葉で、あらわせるわけ、ない、のに。




……温かくて優しくて、ずるいひと。




 私と彼女の放課後は、消えてなくなりました。

 両親からの慰めだとか、形だけの顧問からの気遣いだとか。

 それら全てが雑音で、余計に胸の奥底が涙を流しました。

 私の小説を褒めてくれた彼女。

 私の「好き」を、受け止めてくれた彼女。

 お揃いのピアス。

 二人きりの放課後。



 想い出になんてしたくなかった。

 現在進行形の幸せを、心の底から愛していた。

 彼女の遺した小説が、私はもう開けないのです。

 あまりにも温かな記憶が、私を傷付けてくるから。


 こんな支離滅裂な文でも、彼女なら褒めてくれるのでしょうか。

 小説の体を成さないこの言葉たちも、彼女なら愛してくれるのでしょうか。




 それでも、ね。





 言葉だけを置いて、いかないでよ。



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