進化論とアンチテーゼ
それからも二人の放課後は相変わらず穏やかに進んでいた。
「悠木先輩」から「有弥先輩」へ。
「深山さん」から「波瑠」へ。
多くの言葉を交わしたわけでは無いけれど、それでもわたしたちは2人の放課後が大好きだった。
大人しい人形のようだったきみは、表情をよく変えるようになった。
「私がこんなにも表情を変えるのは先輩の前だけですよ。2人だけの秘密です。」
わたしも段々とこの距離感に慣れていって、素直にありがとね、と返せるようになった。
「見てください、これ。キラキラしてて可愛くて。先輩に似合うかなと思って。」
ある日きみが持ってきたのは小さな青色のピアス。
「半分ずつにしません?これ。私が左耳に付けるので、先輩は右耳に。」
少し熱の込もった声できみはそう言った。
「ちょっと待って、波瑠。色々追いついてない。そもそもわたし、空けてないんだし。」
いくら恋愛に疎くても、ピアスの意味くらいは知っている。
それに……、と言い詰まるわたし。
それでも、きみは相変わらず綺麗な表情を浮かべていた。
「じゃあ待ってます。先輩がいつか空けてもいいやって思る時まで。」
「波瑠。そういう事じゃなくて、ね。」
「じゃあ、先輩。先輩は私の事が嫌いですか?」
どうも話が飛躍しすぎている。
でも、きみのいつになく真剣な顔に、わたしは慎重に言葉を選んだ。
「ううん、嫌いじゃないよ。でもね、そういうのは、本当に波瑠が好きな人とやって欲しいなって思ってる。」
口をつぐんで、少し考えたきみは、わたしに向き直る。
「私は、先輩が好きです。恋愛対象として、好きなんです。」
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