ユニコーンと探し人

 それから、わたしときみの二人だけの放課後が始まった。



 小説を書いてみたり、読んでみたり。

 二人で雑談をしたり、勉強したり。



 きみの書く小説がわたしはとても好きだった。

 綺麗に紡がれる言葉は儚くて、そして消えてしまいそうなほど美しかった。



 ある時、わたしは疑問に思っていた事をきみに尋ねた。

 なんでこの部に入ろうと思ったの、と。

 きみは、わたしを真っ直ぐに見つめてこう言った。


「先輩の瞳が、綺麗だったからです。」


 紅色の宝石に見えるんです。でも、緑色の森の中のようにも、見えて。

 それが、とっても素敵だから、どんな人なんだろうって思ってここに来ました。



 恥ずかしげもなくそんな台詞をきみは言った。

 固まったわたしを見て、ん? と首を傾げるきみを尻目に、わたしは慌てて答える。


「ちょ、ちょっとどうしたの急に。そんな口説き文句。」


 真っ赤になるわたしとは対照的に、澄まし顔のきみは艶のある髪の毛を耳にかけてから、わたしに向き直る。


「先輩、そういうのには疎いんですね。」


「い、いや、そういうのじゃなくって……えーと、あるじゃん、ほら。」


 訳のわからない事を口から流すわたしを見て、きみは口を尖らせた。

 そして、反対側の椅子から身を乗り出して笑った。


「わかりました、口説きたい人のために取っておきます。」



 でも、先輩の瞳は綺麗です。これは本当ですからね。


 きみはそう付け足した後、いつもよりも楽しそうにパソコンに向き直る。

 わたしは、何に対してかわからない心臓の鼓動を聞きながら、気になってきみの方を盗み見る。

 それでも、きみはいつも通りのきみで、それが少し歯痒くて、でも温かかった。

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