第50部 ge
玄関を開けて外に出る。空を見上げると、白い太陽が煌々と光を放っていた。腕を持ち上げて、頭の上に庇を作る。透明の肌を光が透過して、腕が綺麗に輝いた。そんな様を見て、彼女は太陽が好きになる。そして、そんなふうに何色にでもなれる、自分のことも。
背後で一度閉まったドアが再び開き、デスクが姿を現す。彼は、今は四肢を持って歩けるようになっていた。もともと移動することはできたが、そういう姿で移動するようになったのは、彼自身がそうなることを望んだからだ。
「少し暑いですね」いつかより滑らかな発音で、彼が言った。
「傘を持っていこうかな」シロップは応じる。
「飛んでいきましょうか?」
「どうやって?」
「傘を使って、空を飛ぶ奴がいるのです」
「誰?」
「こうもり」
空は飛ばずに、二人は歩いて町の中を進む。静かだった。鳥の声と、風の音がする。人も車も一つも見かけなかった。けれど、どことなく生活感がある。知らない誰かがすぐ傍の壁を隔てた向こう側にいて、それでも一定の距離を保って存在しているという感覚がある。それは少し怖く、けれど温かくあるようにも思える。
丘陵地にある公園に至ると、遙か向こうの方に、金色に輝く大木が見えた。太陽の光を反射している。近くで見ると、しかし、それは、本当に木であるのか分からなかった。枝とも思えなくもない細い腕が、空に向かって伸びている。全体的には金色に見えるが、瞬きをする度に一時前の色を捨て、姿を変えた。
その大木がその場所に安定するか否か、かつてシロップには分からなかった。植えたあと、何度か公園に通って経過を観察した。初めの内は細い一本の枝だったから、雨や風によって根もとの土が流され、倒れたり移動したりして落ち着かなかった。それでも、彼女は何の手も加えなかった。しかし、結果的に、それは独りでに地面に付いて安定した。
放っておいても、枝は大木となった。しかし、それは一つの結果でしかない。ほかの枝であれば、どうなっていただろう? ほかのタイミングであれば、どうなっていただろう? 今となっては、確かめる術はない。
すべて、流れていく。
自分も、世界も。
あっという間に時間が過ぎた。
どのくらいの時間だっただろう?
風が吹いて、大木に茂った葉が音を立てる。
その音を自らに透過させ、彼女は静かに目を閉じた。
付く枝と見つ 羽上帆樽 @hotaruhanoue0908
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