第47部 a

 頭の上に雲海が広がっている。かつて、その上がどうなっているのか分からなくて、空を見るのが怖かったことがあった。しかし、今はそうではない。逆にその上から下界を見渡したことで、大地のおかしさに気づいてしまった。けれど、そんなおかしな世界に愛おしさを抱くことも、また事実。


 夜の広大なグラウンドにデスクがいる。何をしているのか分からない。彼は決して一人で移動できないわけではない。でも、そういう体でいつも彼女の傍にいる。そうやって、自分に与えられた存在の仕方を保っているのだろう。


 ふと、横目に地面を見る。


 小さなタンポポが生えていた。


 綿毛はなく、すべて黄色。


 シロップは茎に手を伸ばし、根もとの方から花を摘む。


 植物を手に取ることに躊躇いがなかったわけではない。けれど、そうやって何かを壊すことも、一つの価値だと彼女は思った。同時に、自分が壊れることにも価値があるのではないかと予感した。壊れて、失って、消えてしまうことも、すべて美しい。


 かつて、彼女は自分が曖昧になるのが怖かった。透明の肌を持ち、すべてが自分を過ぎ去っていく、そんな自分の在り方が恐ろしかった。自分で自分を定める必要があると強く思った。それで、彼女は自分の内から自分以外のものを作り出し、それで世界を満たした。そうやって、自分と自分以外のものを明確に切り分けようと試みた。

 試みは、たぶん上手くいった。それで彼女は彼女として独立した存在となった。少なくとも、そんなふうに錯覚できた。


 しかし、ルールを逸脱して生まれてきたものたちは、やはり作り物にすぎなかった。自分とは異なるデスクという存在を得て、しかし彼女はそう思った。彼は作り物にすぎない。同時に、そんなふうにルールを逸脱したものを生み出せる自分も、またルールを逸脱した作り物だと悟った。


 そうして、いつしか彼女は、作り物である自分と同じく作り物であるデスクを愛するようになった。


 作り物である彼を、自分と同じ作り物として愛したのだ。


 しかし、それでは、自分と異なるものを生み出して、自分の存在を確立させようとしたことの意味は、どこに行ってしまうのだろう?


 初めからすべて間違えていたのだろうか?


 作りものである彼女には、確立できる自分などないのか?


 胸に手を当てても、もう、自分が消えてしまうことの不安はない。自ら作り出したものたちに囲まれて、いつしか彼女はそれらと不可分になっていた。そのことに気づいた。そして、ルンルンは、きっとその先にいる。彼女は自分を確立することをやめた。だから彼女は彼女以外のものと同質であり、あらゆる場所に彼女がいる。


 自分は、どうすべきか?

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