第48部 ko

 公園を取り囲む木々達が根もとから抜け、軽々と宙に浮かんだ。対照的に、遊具やベンチの類は地面に残っている。シロップはベンチに座ったまま、空を見上げた。


 それらの木々は、初めからこの公園にあったものではない。もともと、この場所には何もなかった。いや、遊具だけはあった。ブランコも、滑り台も、真っ新な草地の上に配置されていた。それらはルンルンが作り出したものだ。彼女に対抗するために、シロップは人工物ではなく、天然物を作り出した。しかし、作り出した時点で、それは天然のものではない。人工物だ。


 木々は宙に浮かんだままゆっくりと回転を始める。運動の速度は徐々に増していった。空気を切る音。つまりは、この世界を作り上げる細かな粒子が干渉し合う音。それがシロップには確かに聞こえた。


 やがて、木々は接触し合い、次々と変形していく。枝が折れ、葉が散った。それらはさらに細かくなり、もはやもとの姿が分からなくなる。細かな粒となり、彼女の頭の上を覆った。


 ルンルンは、遊具を遊具としてこの世界に顕現させた。そういう形を初めから与えた。だからシロップもそれに倣った。彼女の中から出てくるものは、デスクであり、ドライバーであり、木々だった。すべて初めから一定の形を持っている。


 そして、自分も。


 彼女は、初めから彼女という物の怪として生じた。彼女は初めから彼女でしかなかった。透明の四肢を与えられた特殊として生まれてきた。少なくとも、彼女はそう理解していた。


 しかし、透明のものは、何色にでもなれる。彼女は、透明という形を伴ったものとして生まれたのではなく、形すら伴わないものとして生まれた、と解釈できる。これは見方の問題だから、結局のところ、それを決めるのは彼女でしかない。


 何も決めなければ、どうなるだろう?


 与えなければ、どうなるだろう?


 その身を染める色を、すべて時に任せれば、どうなるだろう?


 宙を浮遊していた粒子達は、いよいよ浮力を失って、彼女の身体に降りかかってくる。色は多様であり、表現不可能だった。その色々な色が、彼女の身体を多様に染める。


 やはり、自分以外のものが欲しい、と彼女は強く願う。


 しかし、それがどういう形で在るかは、自分の問題ではない。

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