第27部 ko
コンビニに立ち寄った。いつの間にか腰に嵌めていたポシェットのチャックを開けて、中に幾らか小銭が入っていることを確認する。五十円玉が二枚と、百円玉が四枚見えた。もう少しあるかもしれない。
外は寒いのに、店内は暖かかった。当たり前だ。夏には反対になる。そうすると、春と秋には外も内も同じ温度になるということだろうか。確認したことがないので、本当のところは分からない。
何を買いたいわけでもなかった。ただ、コンビニには、ふらっと立ち寄りたくなる明るさがある。羽虫が蛍光灯に集まるのと同じ原理かもしれない。特有なサウンドエフェクトと、鬱陶しくない店員の対応が、余計に居心地の良さを引き立てている。
適当に、目に付いた漫画と、それから、チョコエッグを持って、シロップはレジに向かった。彼女のほかに客は一人もいなかった。
「いらっしゃいやせえ」
レジの向こうから聞こえてきた声に、シロップは顔を上げる。
サングラスをかけて、煙草を咥えた男が立っている。
「運転手さん」シロップは言った。「こんな所で、アルバイト?」
「こっちが本業だったりしてね」シロップが差し出した商品のバーコードを読み取りながら、彼は話す。「四六時中運転ばっかしていちゃあ、頭がパーになりますからね。もう少し、顔をグーにしようと思いやして」
「運転だけが取り柄みたいなこと、言ってなかったっけ?」
「言ったかもしれませんねえ」
「幾ら?」
「三百九十二円」
「やけに安い気がするけど」
「お得意さんには、ちと、おまけ致しましょう」彼は完璧な笑みを浮かべる。「気前のいい男なんでさあ、あっしって」
「わざとらしい話し方」
「ここで、ご飯を食べます」
そう言って、彼はカウンターの上でコンビニ弁当を広げる。エビフライとハンバーグが入った、なかなかランクの高そうな弁当だった。タルタルソースが付属しているが、彼は使わない主義らしい。主義という言葉は、こういうところで使ってこそ味が出るものだろう。合理主義、快楽主義などと言って、真剣な顔で議論をするのは如何なものか。
「それで、例の男の子とは、うまくいっているんですかい?」口の中にエビフライの衣だけ放り込んで、運転手は言った。
「誰、男の子って」
「机とか何とか」
「デスクは男の子じゃない」シロップは言った。「デスクは、デスク」
「女の子の方は?」
「誰?」
運転手は鋭い視線でシロップを見つめる。
シロップは目だけ天井に向けて、答えた。
「ルンルンのことは、愛してるよ」
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