第8部 shi
城の廊下の先は広場になっていた。さっき通ったのと同じ場所だ。少なくとも、同じように見える。人形に確認してみたところ、見えるだけではなく、やはりまったく同じ場所とのことだった。
「どういうことだと思う?」人形がこちらを振り返って尋ねた。彼女はシロップ本人とは少々目つきが異なる。猫のような目だった。猫目という言葉はあるが、犬目という言葉はあるだろうかとシロップは不意に思う。
「どういうことって、どういうこと?」シロップは尋ね返した。
「誰のせいで、同じ場所が続いているんだと思う?」
「私のせいだって言うの?」
人形はシロップの方を向いたまま沈黙する。その間、人形は瞬き一つしなかった。やはり人形のようだ。我慢対決のつもりで、シロップも瞬きをしないで彼女を注視した。
けれど、そんな努力も花と散り、最後には、耐えきれなくなって、シロップは目を瞬かせる。
一瞬のことだった。
城の天井が大きな音を立てて崩れ始める。
顔を上に向けると、瓦礫が頭の上に迫っていた。
そして、人形の笑顔。
シロップは確かにそれを見た。
瓦礫が頭に接触する一歩手前で、デスクが防衛機能を発動した。青い板状のバリアを展開し、シロップが負傷するのを防いだ。
「ダイジョウブデスカ、オジョウサマ」デスクが言った。
シロップは頭を覆う手を離し、片目だけ開けて周囲を見る。
「貴方、そんなことができたの?」
「エエ、マア、ハイ、ソウデス」
「こんなに緊迫した状況で、感動詞を連発している余裕があるんだ」シロップは立ち上がった。
「キンパクシテイルカラコソ、デス」
「ところで、感動詞って、そういう分類の仕方で合っているんだっけ?」
「コンナニキンパクシタジョウキョウデ、ゴノブンルイウンヌンヲヌカスヒマナド、アルノデスカ?」
見上げると、天井に大きな穴が開いていた。空が見える。地は真っ青のはずなのに、今は灰色の雲に覆われている空だった。天変地異とはこういうことを言うのだろうかと、シロップは考える。その言葉の意味は詳しくは知らなかったが、なんとなく、インパクトは一致している気がした。
「あれは、ルンルン」シロップは言った。
「ルンルン、デスカ?」
「ルンルンは、どこにでもいるし、どんなことだってする」シロップは話す。「大抵の場合、こちらの邪魔になるようなことをする。そういう悪戯っ子なの」
「アナタサマトオナジデスネ、オジョウサマ」
「違うから」そう言って、彼女はデスクを拾い上げて、抱き締めた。
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