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「しっかり休んでね。
ご飯は作ってあるから。
鍵は最後の子が郵便受けに入れてくれればいいから。」
私の一人暮らしの部屋、ヘルプについてくれた女の子数人を今日も私の部屋に泊まらせる。
「響華さん、いつも本当にありがとうございます。
家・・・遠いので。」
「タクシー代くれないお客さんも増えてるからね。
こっちこそ、いつも助けてもらってる。
お店出た後、あの人に気付いてくれてありがとう。」
私に耳打ちしてくれた女の子にお礼を言うと、嬉しそうな顔で頷いた。
「あの、響華さん!!
ご飯なんですけど、今日は筑前煮ありますか!?」
ドレスを脱ぎながら、1人の女の子が私に聞いてきた。
それに笑いながら頷く。
「響華さんのご飯どれも美味しいけど、筑前煮は中でも1番大好きなんです!!
泣きそうになるくらい大好きで!!」
「私の母親の母親の味なの。
母親はもっと美味しく作れる。
義理の妹も・・・あの子ももっと美味しく作れる。」
「あれよりですか!?」
「そう・・・。
私には、重みが詰められない。
私自身に重みがないからね。」
女の子達用に準備している2部屋、そこに今日も女の子達が自分で布団を敷いていく。
それに最後に笑い掛け、私はリビングに置いてある自分のベッドに向かった。
背中に女の子達の元気なお礼の声を聞きながら、まだまだ黒い空を窓から見る。
でも・・・今も終わらない光る街の明かりを見ながら、小さく笑った。
「同じ世界には・・・いる・・・。」
あの人が言うには、生きている時間が違うらしい。
重なる時が、いつか来るのだろうか。
また・・・来るのだろうか・・・。
そう思いながら、あの人から返されたタバコのポーチを開けた。
中を見て・・・笑ってしまった。
マッチの箱が入っていた・・・。
お店のマッチの小さな箱が入っていた・・・。
あの人が入れた、マッチの箱が・・・。
タバコを口に咥え、あの日喫煙所で差し出してくれたのと同じ、儚いマッチの火でタバコの先がジリジリと焦げていく。
それを眺めながら、思いっきり毒を肺まで吸い込む・・・。
そして、ゆっくりとタバコの煙を吐き出した・・・。
毒を、吐き出した・・・。
最低なことを言った、それでも良い男のことを思い浮かべながら・・・。
毒を・・・吐き出した・・・。
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