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「葛西さん、お願いします。」




数日後、クソ親父の会社でバイトをしていたら・・・同じ時間にいるので山ノ内が私に話し掛けてきた。




法人営業部の副部長が人事部の部屋に来て、バイトの私に話し掛けてきた。

それも、その内容が・・・




「人事部の部長さんには話してあるから。

葛西さんにも面接に同席してもらいたい。」




出勤したら、部長からも同じことを言われた。

もう1度部長のことを見てみると・・・複雑そうな顔をしている。




「私バイトだけど。」




「飯田さんもパートさんだけど、一次面接を分担して担当してくれているよ。」




「私、こんな格好だけど?

ジャケットも持ってない。」




「それがいい。

君の姿を見た瞬間驚くだろうから、その瞬間にその人の人間性が見られる。

その瞬間を俺は見たい。」




そう言われてしまうと・・・。

もう1度、部長を見てみると・・・結構納得した顔をしている。

それを確認してから、立ち上がった。




面接の部屋に山ノ内と並んで歩いていると、平和なクソ親父の会社が平和に仕事をしている。




そんな中、法人営業部のフロアを通ると・・・

1番良く見える席にテディベアみたいなオッサンが・・・頭にアフロをのせている。




飯田さんの旦那さんで、法人営業部の部長。

そんなオッサンが、テディベアでアフロで・・・仕事もせずニコニコと笑っていて・・・。




こっちを見ているので、手を振ってみた。

そしたら顔を輝かせてもっと笑顔になり、フリフリと手を振っている。




「あの人が部長って、大丈夫なの?」




「あの人はあれでいい。

むしろ、社長はよくあの人をあのポジションにしたよ。」




「当時は反対意見が大きかったのは聞いてる。」




「長い会社で大きな会社になると、変化を起こすのが難しくなるからね。

自然と同じような人を採用して、何年も何年も変わらないことになる。」




「じゃあ、クソ親父にしては頑張ったのね。」




「あの人が部長になってから、法人営業部の売り上げが上がって、安定しているのは事実だからね。

あとは・・・君の弟さん、残ってくれていればよかったけど・・・。」




クソガキである弟は、法人営業部でトップの売り上げだった。

それに、クソ親父について経営にも携わっていて・・・。




「でも、あれは弟であり弟ではなかった。

あのままでは、どっちにしろこの会社は・・・時代に飲み込まれてた。」




私の返事に、山ノ内が面白そうな声で笑った。




「よく見えているね。」




「クラブには、経営者やそれに近い人も多く来るからね。

それに、ホステス自身も・・・」




「勉強しているよね。

あのお店のクラブのホステス達は、凄い勉強熱心だよ。」




「あのお店のママがそういう人だから。

そこを頑張れる子しか入れない。

可愛くて口が上手いだけではホステスは務まらない。」




そこまで言い切った時、面接の部屋の扉を山ノ内が開けた。




「どうぞ・・・。

うちの会社に残った、たった1人の社長のお子さん。」




「嫌味ね。」




山ノ内を睨み付けながら、部屋に入った・・・。




そしたら・・・




「・・・ンッ・・・っ」




いきなり、抱き締められ・・・深い、キスをされて・・・

それも、離れようと身体や顔をのけ反るのに・・・この人は深く追ってくる・・・。




しかも、キスが・・・気持ち良すぎて・・・

激しすぎて・・・

足に、力が入らなくなってくる・・・。




最後はゆっくりと、私の唇から自分の唇を離して・・・

私を怖いくらい真剣な顔で見詰め、もう1度軽めに唇を重ねた。




何も喋れず息だけ上がっている私に、この人は満足そうな顔で笑う。




「タバコの火は消さないで。」




「タバコの、火・・・?」




「君は社長に残された、たった1本の紙巻きタバコ。

きょうだいの中でも1番強い毒・・・」




そこで言葉を切り、片手で私の胸の谷間をなぞる・・・。

それに何度も身体が跳ねてしまう・・・。




「その強い毒を、この会社に吸い込ませて。

そして・・・社員達から吐き出させる。

吸い込んだタバコの毒を、仕事をする時に吐き出させる。」




あまりに強い目で、目が離せない・・・。

こんなに強い目を出来る人だとは、知らなかった・・・。




「だから、君はタバコの火を消さないで。

夜の世界だけでなく、この会社でも。

君というタバコの毒を、この会社に吐き出させるから。」




そう言って笑うこの人は・・・経営者だった・・・。

うちのクソ親父とは違う・・・。

裕福な家に生まれ育ったうちのクソ親父とは違う、きっと、違う・・・経営者だった・・・。




あのクソガキ・・・

とんでもない男を私に近付けさせたね・・・。

とんでもなく最低で、とんでもなく良い男で・・・。




こんなの、私には無理・・・。

私には重みがないから・・・。

重みがないから・・・。




引き寄せられてしまう・・・。




引き寄せられてしまう・・・。




こんなに簡単に、引き寄せられてしまう・・・。




お互いゆっくりと顔を近付け、唇を重ねた・・・。





「響ちゃん自身が吹き掛ける、吐き出すタバコの煙は、俺にだけで・・・。」





そう言って笑うこの人は・・・





あの夜、私が夢中になって求めた・・・





拓実だった・・・。

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