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「響華(きょうか)、1週間も休むって聞いた時は驚いたけど、すぐに来てくれてよかったわ。」
着物を着たママが、ドレスアップした私に笑い掛ける。
“ママ”というのは本物のママではなく、クラブのママ。
私は、あのクソ親父の会社の他に、クラブのホステスとしてバイトをしていた。
「本当に・・・戻ってこられてよかった。
どうなることかと思った。」
そう笑いながら答えると、すぐに指名が入った。
確認すると、昨日の夜に営業のメッセージを送っていた1人だった。
その人に笑い掛け、テーブルに向かって歩き出す・・・。
そのお客さんだけでなく、他のテーブルのお客さんからの視線やホステス達からの視線も感じる・・・。
私は、このクラブの・・・“CLUB Toki”のNo.1のホステス、響華だから。
週4日の出勤で、私はNo.1になった。
本当は“アヤメ”というホステスがNo.1だったけれど、“アヤメ”は日の当たる世界に今月から行ってしまった。
だから、私がNo.1になった。
順位は気にしていないけど、1番になるのは少し嬉しくも思う。
山ノ内からの話は当たり前だけど断り、これでスッキリした。
生理もきて、山ノ内にもキッパリ断って、これでスッキリとした。
私は、響華・・・。
黒い夜の中でも光り輝く街・・・
その街に響く華・・・。
私は、響華・・・。
お客様とのアフターで、ヘルプの女の子数人と一緒に店を出る。
結構大きな会社を経営している男の人。
私も沢山呑んだけど、全然辛くなかった。
むしろ、また呑めることに喜びを感じている。
1月中旬の夜12時過ぎ。
ピリッと痛いくらい冷たい空気に、包み込まれる・・・。
それが私の頭をスッキリとさせる。
真冬の夜、この冷たい空気が私は好きだった。
「響華さん・・・あの、あの方って・・・。」
ヘルプの女の子が私に耳打ちをしたので、女の子が見ている方に視線を送る・・・。
まだまだ眠らない夜の街・・・
“CLUB Toki”の店のすぐ前に・・・
「山ノ内・・・」
山ノ内が、いた・・・。
「響華さんのお父様の会社の方ですよね?
前にもいらしたことがある・・・。」
「うん・・・。」
「響華さん、少しご対応した方が・・・。
あちらのお客様とは、先にいつものお店に向かっていますので・・・。」
「ありがとう・・・すぐに行くから・・・。」
女の子達が上手いこと対応してくれ、先にお客様と一緒お店に向かってくれたのを確認し、山ノ内の前まで歩いた。
「私に用?」
「ああ・・・。」
一体いつから待っていたのか、唇を震わせている山ノ内が私を見下ろす。
よく見ると・・・鼻も赤い・・・。
あんなに大きな会社の役職者が、ホステス1人を寒さに凍えながら待っていたらしい。
「店に入ってくればよかったのに。」
「他の女の子達もつくからね・・・。」
「こんな所で突っ立ってても、話せるか分からないじゃん。」
「話せて、よかった・・・。
待っていた甲斐があったよ。」
「そういう気概は大切だとは思う。」
山ノ内を見上げながら、笑う。
「綺麗なスーツを着て綺麗な顔のまま平然と仕事をしているより、今の姿の方がずっとクソ親父の会社に必要な姿。」
「そうだろうね・・・。」
「私は、ホステスなの。
本当のママから言われて親父の会社で社会勉強はしているけど、私はホステスなの。」
「ああ・・・。」
「アナタとは生きられない。
住む世界が違う。」
そう伝えると、山ノ内の眉間にシワが寄った。
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