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急いで女子トイレに駆け込み、個室の中で確認をする。




やっぱり、来ていた・・・。

来ていた・・・!!




生理が、来ていた!!!




私は予定日を過ぎたことがなくて・・・。

3日遅れただけで心配してしまった・・・。

5日も遅れることなんて初めてだった・・・。




それに、心当たりがあったから。

あの男と、心当たりがあったから。




不安になっている時にあの男が現れて、言ってしまった。

吹き掛けてしまった。




吸い込んだタバコの毒と一緒に・・・

あの男に吹き掛けてしまった・・・。




言わなければよかった。

言わなければ、たった1度の関係で終われたのに・・・。




あんなことを言う最低な男だと知らないまま、終われたのに・・・。




女子トイレから出て、会社のビルの喫煙所に入る。

数人いた男が、私が入ると出ていった。

社長の娘には聞かれたくない話をしていたのだろうと思う。




溜め息を吐き、いつも通りタバコを吸おうとして・・・思い出した。

あの男からタバコを返してもらっていなかった。




少しだけ考えたけど、近くにコンビニもある。

そこで買おうと、喫煙所の扉に手を掛けようとした時・・・




外から扉が開いて・・・




山ノ内が・・・。




山ノ内が入ってきて、私が後退るとどんどん近付いてくる・・・。




そして・・・




「・・・な、なに・・・?」




壁まで追い込まれ、凄い近付かれたので、両手で山ノ内の胸を押す・・・。




「結婚しなくてもいい。」




山ノ内が、怖いくらい真剣な顔で見下ろして・・・そんなことを言った。




その言葉に、私は山ノ内を睨み付ける。




「愛人になれってこと?」




「・・・違う。

結婚しなくてもいいから、子どもも作らなくてもいいから、俺は君と生きていきたい。」




そんな言葉を、この上等なスーツを着た男が言う。

顔も良い、金もある、権力もあるような男が、そんな言葉を簡単に言う。





「それがどんな意味か本当に分かってる?」




「分かっている。」




「アナタみたいな男が、簡単に言うような言葉ではないから。」





私がそう言うと、山ノ内が眉間にシワを寄せた・・・。

苦しそうな顔で私を見下ろしているけど、そんなのは関係ない。





「タバコ、返して。」





山ノ内は私を見下ろしながら、スーツのポケットに手を入れ・・・ゆっくりと私のタバコを入れているポーチを私に差し出してきた。





それを受け取ろうとして・・・





「・・・離してよ。」





タバコのポーチを離してくれない・・・。





「タバコを吸えばいい。

好きなだけ、吸えばいい。」





山ノ内は怖いくらい真剣な顔で、眉間にシワを寄せて、私を見詰めて・・・





「君が吹き掛ける煙を、俺は一生吸い込むから。」





そんなことを言われたら・・・





そんなことを、言われたら・・・





山ノ内の顔から目が離せなくなる・・・。






「生きていこう、一緒に・・・。

響(ひびき)ちゃん・・・。」





山ノ内が・・・





山ノ内が・・・





私を、響ちゃんと・・・





響ちゃんと、呼んだ・・・。

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