タバコの煙を吸い込んで

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「あれ？響歌さん今日少し小さいですね？」

エレベーターに乗っていたら、男からそう言われた。

「ヒールじゃないからね。」

「・・・本当だ、どうしたんですか？」

「今日は気合い入ってないの。」

「確かに、服も大人しいですね。」

男が私の服をマジマジと見てくる。

それに気付かないフリをしていると、エレベーターの扉が開いた。

開いて、少しだけ驚く。

扉の前に山ノ内がいたから・・・。

私は驚いたのに、山ノ内は平然とした顔で私を見た。

「じゃあ、響歌さん・・・また。」

「うん。」

さっきまで話していた男が笑顔でエレベーターを降りていき、代わりに山ノ内が乗り込んできた。

山ノ内が私に少し笑い掛け、笑い掛け・・・

エレベーターのボタンを押さなかった。

それが分かり、動悸が激しくなる。

冷や汗が吹き出てきて、苦しくなってくる。

だって、このエレベーターが・・・

このエレベーターが向かう先は、たった1つで・・・

たった1つの階で・・・。

社長室だった・・・。

社長室がある階でエレベーターの扉が開き、山ノ内が“開”ボタンを押して私が降りるのを待っている。

「最低・・・言ったの？」

「妊娠の可能性のことは言っていない。」

「じゃあ・・・何を言ったの？」

私が聞くと山ノ内が私の背中をソッと押して、エレベーターを出るように促す。

その背中の手に、ゾワゾワと嫌悪感を抱いてしまう。

「触らないで。1人で歩ける。」

「葛西さん・・・。」

「私は、1人で歩ける。」

そう言って山ノ内を睨み付け、先に社長室にノックもせず入る。

山ノ内は後から、“失礼致します”と言ってお辞儀をして入ってきた。

そんな私と山ノ内を、社長が少し驚いた顔で見ている。

私は社長に何も言わず、応接ソファーに座り足を組んで・・・腕まで組んだ。

そして・・・山ノ内が私の隣に座る。

社長は私と山ノ内の前に、困った顔をしながら腰を掛け・・・

何も、言わない・・・。

私の顔をジッと見てきて、その困った顔がイライラするので声を上げた。

「なに！？クソ親父！！！」

私はこの会社の社長の娘だった。

代々親族で受け継いできた保険会社、大手企業の社長の娘だった。

父親でもある社長が、まだ私を困った顔で見ていて・・・

「山ノ内副部長と・・・結婚しないかな？」

そんなふざけたことを言ってきたので、叫ぶ。

「するわけないでしょ！！！？？？

私がこんな男と結婚するわけないでしょ！！！！」

叫んで立ち上がった。

「二度と言わないで。

兄貴も弟もこの会社からいなくなったからって、私をそういう風には使わないで。」

「葛西さん・・・」

「うるさいわね！アナタは黙って！！！」

そう、叫んだ時・・・

叫んだ時・・・

アノ気配が・・・。

アノ気配が・・・。

それが分かり、大きな溜め息を吐いた・・・。

2人を見下ろしながら、言う。

「この人とは結婚したくないし、私は社長の嫁になるつもりもない。」

眉間にシワを寄せて難しそうな顔をしている山ノ内に、言う。

「あの件、来たから。」

それだけ言って、社長室を出た。