3

ほとんど眠れないまま朝を迎え、ラフな服を着てコートを羽織る。

ヒールのないショートブーツを履き、マンションを出た・・・。




駅に着くと、スーツ姿の群れの中・・・派手なドレスを着た盛られた髪型の女の子が。

壁に寄り掛かるように座り、下を向いてしまっている。




見てみると、ほぼ寝ている状態だった。

その女の子のすぐ近くにしゃがみ、肩を揺らす。




それでも起きないので・・・




「立ちな!!!!歩くんだよ!!!!」




女の子の耳元で、腹から声を出した。

女の子はうっすらと目を開け、私を見る。




「タクシーで帰りな!!!」




「お金ない・・・。」




「金の心配する前に!!!

自分自身の価値の心配しな!!!」




そう叫び、女の子の腕を私の肩に回し・・・




立ち上がろうとした・・・





その時・・・





女の子のもう片方の腕を、黒い上等な生地のコートを羽織った男が掴んだ・・・。





そのコートの男を見てみると・・・





山ノ内だった。





私が驚いていると、山ノ内が優しい笑顔で笑い・・・




「俺も一緒に。」




と、言って・・・。

断りたかったけど、この泥酔した女の子を1人でタクシー乗り場まで連れていくよりも、この男がいた方がいいのは分かる。




「分かった。」




そう答え、2人で女の子をタクシー乗り場まで送った。

タクシーに放り込み、泥酔している女の子に住所を言わせ、私の財布から数枚の札を握らせる。




「この女の子、お願いね!!」




そう言って、タクシーの運転手にも札を1枚渡した。

笑顔で頷く運転手を確認してから、女の子に最後に伝える。




「帰るんだよ!!!家まで!!!

しっかりしな!!!」




腹から声を出し、そう伝える。

女の子はうっすらと目を開け、また私を見て小さく頷いた。




「名前・・・」




「きょうか!!!」




私が叫ぶと、女の子はうつろな目で・・・でも小さく笑った。




タクシーを見送った後、隣に並んだ山ノ内を見上げる。




「ありがとね、助かった。」




私がお礼を言うと山ノ内が・・・私にお金を渡してきた。

そのお金を見て笑った。




「いらないよ。

私がやりたくてやったことだから。」




「知り合い・・・ではないよね?」




「“人には金を使え”って、親から言われてるからね。

知りじゃなくても、“人”だから。」




そう答えると、山ノ内が優しい顔で笑う。




「葛西さんは?電車?」




「電車。」




「俺も。一緒に行こうか。」




「・・・なんでこの駅にいたの?

最寄り駅とか違うでしょ?知らないけど。」




「出勤前に葛西さんに会いに来た。」




それには、笑ってしまう。

並んで歩く山ノ内を見上げる。




「心配しなくても、山ノ内副部長と関係を持ったことは言わないから。」




「少し、話したくて。」




「それは結果が分かってからにして。

まだ日数的に分からないし、くるかもしれないから。」




そう答えながらも、手が震えた・・・。

震える手を隠すために、両手をコートのポケットに入れる。




「じゃあ、私こっちの線だから。」




「ああ・・・。どこに行くの?」




暗い色をした髪の毛や服装ばかりの人の群れの中、黒い髪の毛で黒いコートを着た山ノ内が私に聞く。




「実家に行ってくる。」




「実家・・・?でも・・・。」




「親には言うわけないじゃん。

殺されるから。」




「殺されるって・・・」




眉間にシワを寄せて難しそうな顔をしている山ノ内に、笑う。




「バイバイ。」




そう言ってから、黒い人の群れの中・・・派手な明るい色をした私が入っていく。




手はまだ震えていて・・・




少しだけ、泣きそうだった・・・。

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