2
人事部の部屋までの廊下を歩いていると、みんながジロジロと私を見てくる。
私はこんな会社では異様な存在だから。
派手な明るめの長い髪の毛を揺らして、
濃い化粧をしている。
そして、身体のラインが分かるような薄いワンピース・・・。
1月中旬なのに胸の谷間も結構見えている。
いや、見せている。
そんな服装の中、ヒールの靴で人事部の部屋に戻ろうとした時・・・
「響歌(きょうか)さん!!この前はありがとう!!」
若い男の社員に話し掛けられる。
その男を確認し、笑い掛けた。
「あの・・・響歌さん、またいい?」
「いいよ、いつ?」
2人でスマホを取り出し、スケジュールを合わせる。
「あの、俺・・・めちゃくちゃ好きなんですけど。」
「私も好きだから。」
「あの・・・今度、普通のデートもしたいです・・・。」
「この前のもデートでしょ?」
私がそう答えると、男は照れたような顔で笑って頷いた。
人事部の部屋に戻り、パソコンに向き合う。
求人媒体の管理者画面を開き、また面接のスケジュール調整をしていく。
隣の席、いつも座っていない隣の席の人のことを考え、溜め息を吐く。
この隣の人とペアになって仕事をしているのだけど、お互い仕事で会えたことはない。
やり取りはいつもメールかメモで。
このペアの人・・・飯田さんの書類選考に通過した人のスケジュール調整を、私がしていく。
飯田さんはパートなので、家のこともあるからあまり無理なスケジュールを入れたくはない。
でも、今見た返信には日曜日が面接希望になっている。
平日も土曜日も仕事が大変らしい。
申し訳ないけど、日曜日も入れさせてもらうことにした。
飯田さんからは“いつでもいい”と言われていているけど・・・。
週3日勤務のパートなので、なるべくその中でスケジュール調整はしていく。
そして、私は・・・
週3日勤務どころか週2日勤務のバイト。
今年32歳になる女が、バイトの掛け持ちをして生活をしている。
*
溜め息を吐きながら、繁華街が近くにある一人暮らしのマンションまで帰る。
広いエントランスを通り、オートロックを2回開けエレベーターに乗って、上の方の階まで。
部屋に入り電気も付けず、大きな窓へ歩いていく。
夜で暗いはずなのに、明るい。
黒い空とは対照的に、まだ街はこんなに明るい光で輝いている。
それに、笑ってしまう。
一人暮らしの部屋の中、私の笑い声だけが響く。
スマホを取り出し、電話を掛けた。
「1週間くらい休みにさせて。」
バイト先に連絡をして休むことを伝え、真っ暗の部屋の中・・・
大きな窓のすぐ近くに置いたベッドに座り、寝る気配のない夜の街の光を見ながら・・・
見ながら・・・
下腹部に手を添えた・・・。
「絶対に殺される・・・。」
小さく呟いた声に、誰も返事はしてくれない・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます