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人事部の部屋までの廊下を歩いていると、みんながジロジロと私を見てくる。

私はこんな会社では異様な存在だから。




派手な明るめの長い髪の毛を揺らして、

濃い化粧をしている。

そして、身体のラインが分かるような薄いワンピース・・・。

1月中旬なのに胸の谷間も結構見えている。

いや、見せている。




そんな服装の中、ヒールの靴で人事部の部屋に戻ろうとした時・・・





「響歌(きょうか)さん!!この前はありがとう!!」





若い男の社員に話し掛けられる。

その男を確認し、笑い掛けた。





「あの・・・響歌さん、またいい?」




「いいよ、いつ?」





2人でスマホを取り出し、スケジュールを合わせる。





「あの、俺・・・めちゃくちゃ好きなんですけど。」




「私も好きだから。」




「あの・・・今度、普通のデートもしたいです・・・。」




「この前のもデートでしょ?」





私がそう答えると、男は照れたような顔で笑って頷いた。




人事部の部屋に戻り、パソコンに向き合う。

求人媒体の管理者画面を開き、また面接のスケジュール調整をしていく。




隣の席、いつも座っていない隣の席の人のことを考え、溜め息を吐く。

この隣の人とペアになって仕事をしているのだけど、お互い仕事で会えたことはない。




やり取りはいつもメールかメモで。

このペアの人・・・飯田さんの書類選考に通過した人のスケジュール調整を、私がしていく。




飯田さんはパートなので、家のこともあるからあまり無理なスケジュールを入れたくはない。

でも、今見た返信には日曜日が面接希望になっている。

平日も土曜日も仕事が大変らしい。




申し訳ないけど、日曜日も入れさせてもらうことにした。

飯田さんからは“いつでもいい”と言われていているけど・・・。




週3日勤務のパートなので、なるべくその中でスケジュール調整はしていく。




そして、私は・・・




週3日勤務どころか週2日勤務のバイト。




今年32歳になる女が、バイトの掛け持ちをして生活をしている。














溜め息を吐きながら、繁華街が近くにある一人暮らしのマンションまで帰る。

広いエントランスを通り、オートロックを2回開けエレベーターに乗って、上の方の階まで。




部屋に入り電気も付けず、大きな窓へ歩いていく。

夜で暗いはずなのに、明るい。

黒い空とは対照的に、まだ街はこんなに明るい光で輝いている。




それに、笑ってしまう。

一人暮らしの部屋の中、私の笑い声だけが響く。




スマホを取り出し、電話を掛けた。




「1週間くらい休みにさせて。」




バイト先に連絡をして休むことを伝え、真っ暗の部屋の中・・・

大きな窓のすぐ近くに置いたベッドに座り、寝る気配のない夜の街の光を見ながら・・・




見ながら・・・




下腹部に手を添えた・・・。





「絶対に殺される・・・。」





小さく呟いた声に、誰も返事はしてくれない・・・。

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