タバコの煙を吸い込んで

Bu-cha

1

1

会社の女子トイレの個室の中、激しい動悸が・・・。




冷や汗が吹き出てきて、呼吸も苦しくなる・・・。




だって、こないから・・・。




くるべきものが、こないから・・・。




生理が、こない・・・。




「でも、まだ3日・・・。」




それでも、怖くて・・・。

心当たりがあるから・・・。

でも、避妊したとは言っていた・・・。

でも、私は酔っていてそこまでは覚えていなくて・・・。




翌朝慌てて聞いて、返事を聞いただけだった・・・。




どうしよう・・・。




どうしようか・・・。




殺される・・・。




殺されてしまう・・・。




会社のビルの喫煙所・・・。

昼休みでもなんでもないからか、誰もいない・・・。




それに安心しつつ、タバコを口に咥える。

いつものようにライターで火をつけようとするけど・・・




つけられなくて・・・。

手が、震えて・・・。




手が震えて、つけられなくて・・・。




震え続ける手でなんとか火をつけようとした・・・




その時・・・




儚い火が視界の隅に入り・・・




私はライターを下に下ろした・・・。




その儚い火が、タバコの先に・・・。




タバコの先がジリジリと焦げていく。

それを眺めながら、思いっきり毒を肺まで吸い込む・・・。




そして・・・




唇を少しだけ尖らせ、その隙間からタバコの煙を吐き出していく・・・。




目の前に立つ男の顔面に、煙を吹き掛け・・・




煙で顔がよく見えなくなり、少し薄れてきた時に言った。




「生理がこない。」




煙を顔面にかけられた男は、無言になった。

どんどん煙が薄くなっていき、男の顔面が見えてきた。




良い男だった。

顔も良ければ性格も良さそうで、金も権力もありそうな良い男だった。




そんな男が、眉間にシワを寄せて難しい顔をしている。





「俺“は”、避妊したけどな・・・。」





その答えを聞いて、笑った。

笑って、綺麗にネイルされた爪を見ながら・・・またタバコを口に咥えようとする。




そしたら、その手をこの男に掴まれた。




「妊娠してるか分かるまで、止めてね。」




「相手、アナタじゃないからアナタはそんな心配しなくていい。

アナタ“は”避妊したんでしょ?」




「ああ・・・俺“は”避妊した。」




「それならやっぱりアナタじゃない。」




そう言っても、この男はタバコを持つ手を離さない。

そして・・・タバコを取り上げられた。




タバコを入れているポーチまで取り上げられ、持っていたライターも持っていかれた。





「少し、考えたい。」




「何を?」




「結婚するか・・・。」




「するわけないでしょ?

アナタの子じゃないのに。」




「・・・分かった。

でも、結果だけは教えて。

そしたらタバコを返すから。」





そう言われ・・・それには、頷く。





「葛西さんの連絡先・・・。」





手に持っていたスマホを持ち、この男がそんなことを言ってくる。





「同じ会社だし、会社用のスマホなら番号知ってる。」




「葛西さんは人事部だから会社用スマホないよね?」




「アナタは知らなくていいんじゃない?

むしろよかったじゃん、知らなくて。」





そう言って笑いながら、喫煙所の扉を開けた。





「バイバイ、山ノ内副部長。」





法人営業部の副部長、山ノ内拓実(たくみ)今年35歳。

私がこの前やってしまった男は、喫煙所の中・・・最後まで眉間にシワを寄せて難しい顔をしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る