お仕置き

 間違いない。あの時俺を嵌めた美少女四人組パーティーだ。


 向こうも俺に気が付いたのか、こちらを見て何やらコソコソ話をしている。俺が突っ立って視線を送っていると、四人は近づいてきて、リーダー格の子が小声で話しかけてきた。


「オジサン、生きていたのね」


「ああ、おかげさんで」


「それで、ギルドには報告したの?」


「いや、してない。証拠が何もないからなぁ」


「ふっ、でしょうね。報告したって、私たちがオジサンに襲われそうになって、返り討ちにしたとでも言えばいいもの」


「それはさすがに無理があるだろ。俺の金も持ち物も全部盗んで行ったくせに。調べたらすぐに分かるさ」

「証拠が無いってのは、俺の体の方だよ。強力な魔法を喰らって瀕死になったって訴えても、傷の一つもなく完治しているからな。あり金全部持っていかれたら、瀕死を一瞬で完治できる高額な治癒魔法なんて受けられないし」


 俺の言葉に、女の一人が首を傾げる。ああ、アイツは俺にストーンブラストを撃ち込んだやつだな。


「あの魔法を至近距離で受けて、生きているだけでも驚きなのに、もう動けるなんて……。ヒールポーションも奪ったし、どうやったの?」


 俺が「ひ・み・つ」とおどけて見せると、彼女の切れ長の目がキッと鋭くなった。おぉ、怖い怖い。


「それよりも、俺から盗んだ金を返してくれないか? そうすれば許してやるし、ギルドにも内緒にしておいてやるよ」


「ええ、分かったわ。でも今は持っていないから、明日私たちの家まで取りに来てくれる? これ、住所よ」


 リーダー格の子は素敵に微笑むと、そう言って紙切れを俺に差し出す。


「いいだろう」


 俺が頷いて、その紙切れを受け取ると、彼女たちは去っていった。


「アイツら、ウィルを殺す気」


 俺の体に巻き付いているベネットが、念話で警告する。


「んなこたぁ分かってるよ。前は油断してたし、一人だったからやられたけど、今はお前がいるだろ? 頼りにしてるぜ、相棒」


「任せて! ベネット、頑張る!」


 気合の入ったベネットの返事を聞いて、俺はほくそ笑むのだった。




 * * *




 翌日、紙切れに書かれた住所へ行くと、そこは貧民街にあるぼろい建物の一つだった。あのカワイ子ちゃんたちが、こんなところに住んでるわけないよなぁ……。殺る気満々じゃねぇか、まいったね。


 その建物の中に入っていくと、あの美少女四人がいたので、俺は片手をあげて声を掛けた。


「ちわー、集金に来ましたー」


 煩わしそうにリーダー格の子が俺を見る。


「怖気づいてここまで来ないと思っていたのに、よく来たわね?」


「こんなんでビビってたら、冒険者なんてやってられるか」


「まぁ、いいわ。あなたはここで殺す」


 リーダー格の子がそう言うと、ぞろぞろと武装した男たちが奥から出てきた。


 お、アイツは強姦殺人で指名手配中のボウジャック。あっちは強盗殺人のジャーアク。他にもいっぱい賞金首の奴がいるな。俺を殺すために、わざわざ雇ったのか。ご苦労なこった。


 得物を構えて、俺を取り囲む五人の男たち。離れたところで笑みを浮かべる美少女四人。


「なぁベネット。こいつらまとめて行動不能に出来ないか?」


「お安い、御用」


 俺の体に巻き付きていたベネットは、元のキノコの姿に戻って胞子をばらまいた。


 すると、その場にいる俺以外の人間の大半がバタバタと倒れて行き、身動きが取れなくなった。


 胞子が効かないやつには、先端を刃にした菌糸を伸ばして、脚の腱を切り動けなくした。とんでもない早技だ。


「ベネット、あの四人以外は全部喰ってもいいぞ」


 ベネットからさらに菌糸が伸び、次々と男たちに絡みつく。彼らは繭状に包まれて少しの間藻掻いていたが、すぐに動かなくなった。

 菌糸が解かれた後には、装備品と衣服を残して消滅していた。


 ベネットを見ると、高さ1mほどの大きさになっていた。いっぱい食べて、大きくなったのね……。


 残された四人の美少女たちは、恐怖で顔が引きつっている。


「その、キノコ型モンスター、まさか……」


「ああ、ブラッディマッシュだ。丸っこくて、意外とかわいらしい見た目してるだろ?」


「厄災級モンスターがなんでこんなところに……? まさかテイムしたとでも言うの!?」


「俺、テイマーじゃないからテイムとかは出来ないんだけどね。なんか懐かれたんだ、いいだろ?」


 俺がニタリと笑って見せると、ギリ、と歯を食いしばる面々。


「さて、どうしようかな?」


 俺はさらに悪人っぽく笑って見せた。

 美少女たちが「ヒィッ!」と悲鳴を上げる。


「この通り、謝るから許して! お金もきちんと返すから!」

「ごめんなさい! 私たち脅されて仕方なくあなたを襲ったの!」

「お願いだから殺さないでぇ!」

「助けてくださいぃー」


 四人は涙ながらに訴えてる。かわいい子っていいよなぁ、こんな姿を見せられると、つい許したくなってしまう。でも、強盗殺人未遂なんだからしっかりお仕置きしないとね。楽しんでなんかいないからな!


「おじさんさぁ、あの魔法喰らった時、すごく痛かったんだよね」


「怪我ならもう治っているじゃない!」


「あれれー? そんなこと言っちゃうわけ? おじさん、ちょっと腹立つなぁ」


 四人は口を閉じて俯く。


「いいよ。許してやるよ。でも次は無いからな。俺の気が変わらないうちに失せろ。金も全額きちんと返せよ?」


 俺がそう言うと、四人はそそくさと去って行った。ベネットの念話が聞こえる。


「アイツら、まだウィルを殺す気だよ。殺しておけば良かったのに」


「だろうな。次にあいつらが俺を殺しに来たら、喰っていいからな。ってか、お前、なんか話し方が流暢になってないか?」


「たくさんの人間を取り込んで消化吸収したから、多くの人間の知識を得たし、僕の言語理解能力も向上したみたい」


「そっかー、体も大きくなったしなぁ。そのサイズだと菌糸の状態で、俺に巻き付いても誤魔化せないぞ」


「それなら心配ないよ。人間に擬態出来るようになったから」


 ベネットはそう言うと、ずんぐりとしたキノコスタイルがみるみる細くなって、天使かと思えるほどの美しい少年に変身した。


「この姿なら人間に見えるでしょ?」


「人相の悪い奴ばっかり吸収したのに、美形になるのは解せんな」


「吸収した人間の平均値で、顔を作ったらこうなった。それと、新人冒険者を名乗るために若い容姿にしたんだ。どうかな?」


 ベネットは念話じゃなくて、口を動かしてそう話す。


 あー、美醜に関して、どっかでそんな話聞いたことあるな。究極の美形ってのは最も平均的な顔だとかなんとか。まぁどうでもいいか。これならモンスターに見えないし、堂々と街も歩ける。


「その設定でいいぞ。だが素っ裸で街を歩くわけにもいかん、そこらへんに散らばってる適当な服を着てくれ」


 しかし、ギルドへの報告どうするか。賞金首の重罪人を五人殺したから賞金が貰えるだろうが、血を一滴も残さず皆殺しにしたとなれば、どうやったのかしつこく追及されるだろう。そうなればベネットの存在に気づかれるかもしれない。


 結局、俺はギルドに報告せずに宿に帰ることにした。

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