初日からお休みさせていただきます

 今日は入学式が執り行われる日です。まだ日は昇っていませんが、天気予報では晴れの予報になっています。


 で、ですね…すっかり忘れていたんですが…、代表挨拶があったんですよ。登校とかをあみ様と行くのが、ざっくり言えばワンステップ目だったわけですが…


『プルルル プルルル…』

「全然電話に出てくれませんね…」

「まだこの時間じゃあ起きていない人もいるでしょ?」

「直接で伝えに行きましょうか。」

「まださすがに早いから、二時間後くらいで良いんじゃないかな?」

「そうですね、その間に起きてくだされば返事も来ると思いますし。」


 結局は一時間後に向こうの方から電話が来ました。


『もしもし、トワさんで間違いありませんか?』

「はい、そうですよ?」

『すいません、すぐに出ることが出来ずに…。何か報告がありますか?』

「端的に言うと、入学式に挨拶を頼まれましてね…。断るわけにもいかないので、初日に申し訳ありませんが、ご一緒に登校できないかと。」

『了解しました。少し残念ですね…。どれくらいの時間に登校するつもりなんですか?』

「もう出ようかと。」

『え、マジですか?』

「まじです」

『というか、どんなことやったら入学式であいさつなんて頼まれるんですか?』

「首席とったら頼まれますよ。」

『へ?』

「首席とったら頼まれますよ。」

『トワさんってたくさんいたりしませんよね?なんか事前情報と会ってみた実際の様子と、ついでにそこからの変貌とで脳がごちゃごちゃになるのですが…』

「そんなに難しくありませんでしたからね、今回の入試。」

『そうなんですか?私は推薦だったもので…』


 数十分話していたら、いい時間になってきました。まだ暗い外でも、目が発達しているので見やすいのが幸いですね。


◇視点変更「あみ」


 私が小さい頃は、お父さんは今みたいに偉くなくて、普通の家庭のような感じだったと思います。会社が立ち上がったのは六年ほど前で、私はともかくお母さんは応援していました。


 結構大きくなった私は、お父さんの働いている会社に見学させてもらうことが、しばしばありました。


 たまに見かける社員さんの中に、ネオライブのライバーとして活躍されていた方も、もちろん生で見たこともあるし、何なら話したこともあります。


 こう見かけると、やっぱり会社って働く人と管理する人が、適切な信頼関係やちゃんとした仕事をもって成立することが、改めてわかりました。Vtuberは原石でも宝石でもなく、れっきとした人間で、誰かが楽しみ・儲けるためだけに存在するような芸術品ではないということも知りました。


 私が憧れたのは、お父さんじゃなくて、ライバーさん方だったと思います(親不孝かもしれません)。仕事の延長上で楽しんだり、視聴者を笑わせることが出来る。生でアニメのアフレコをしているような、妙な興奮が付き纏っていたと言えるでしょう。


 でも、漠然としたものだったんです。自分があのように喋れるのか、ゲームができるのか、歌が歌えるのか、絵が描けるのか…。逆に身近過ぎて、差が一目瞭然のように思えました。


 それを変えてくれたのは、数多のライバーたちを何年か見ていた、お父さんでした。


『じゃあ、他のみんなに聞いてもらえばいいんじゃないか?正直、周りが面白いって思っていれば、俺は自己評価なんてどうでもいいと思ってるんだ。あみは、自分をさらけ出してみたら、どんなんになるか知りたくないか?』

 だって。


 Vtuberは、演技の濃さによってやり方がコロコロ変わります。でもね、こういう考え方もできませんか?


 ”私だと思ったものが私なのだ”と。


 他人からの評価を当てにしても、自己評価でへこんだっていい。でも、それで何かを変えることが出来るのは自分だけ。なら、自分が見当たらない私は、他人からのおすすめを当てにすることにしました。


 お母さんから、あなたは機械や楽器の扱いがうまいと言われたので、試しにお父さんの会社の三期生募集で、作った曲を送ってみました。


 すると、意外なことに二次面接に進むことが出来ました。面接では、当たり前のように特技や個性について聞かれました。私は胸を張って曲を作ることと、今はまだ未知数ですと答えました。


 新しい仕事・学校・一人暮らしも、支えている人がいる限りは、わたしは永遠に止まらないでしょう。


 というか、支えてくれる人で思い出しましたが、引っ越しの日にたまたまトワさんに会ったんですよ。最初は写真のイメージ通りでしたね。


 確か…


 私は、駅の名前は知っていて、スマホでちゃんと乗り換え先や時間を見て家を出たんですよ。私は若干方向音痴なので、迷いだすと止まりませんから。


 けど、それが裏目に出ちゃってスマホの頼りない充電が遂に限界を迎え、ただの金属で作られた板と化しました。


☆回想


 え、ここどこ?周りが公園だってことは知ってたけど、そのおかげで地図に書かれてた方向も分からない…。出口の方向でわかるだろって?私にそんな先を見越すような頭なんかねえ!あったら方向音痴なんて不名誉な称号ないわ!


 公園にマップでもあったらよかったんだけど、探し回ったら探し回ったで行方不明とかになっちゃいそうで怖い。というわけで、誰かに声をかけようとしても全然人が居ません!


 うせやろ?もしかして通勤とかの人には、ちゃんと使える舗装された道でもあったのかな?駅に出てから二分くらい歩いたところで道が獣道っぽいところを通ったのは間違いだったか…


 すると、目の前に開けた場所が見えた。木と木の間を縫って歩くより、あの場所の真ん中で人がいないか確かめた方が分かりやすそうだね。


 というわけで、もう高くても膝くらいまでしかない草に苦戦しながらも、中心付近にまでたどり着いた。しかし、いざ周りを見ても背の高いビルなんかは見えるのだが、目印とかが全く見えない。必死にビルを思い出そうとしてあたりをきょろきょろ見ていると、


「何かお困りですか?」

「あっ!」


 救世主キター‼神は私を見放していなかった。


「すみません。私、ここに来るのが初めてなのですが、スマホの充電が切れてしまって…。引っ越す予定の場所がどこかも、ここがどこかもわからないまま、駅に帰ることもままならなくなってしまったんです。」


 とにかくかわいそうさをアピールしたかったんだけど、何となく説明口調なのがマイナスだね(自己評価)。よく見たらこの人めっちゃきれいだな、綺麗というか…こちらのことを何でも聞いてくれそうな、妙な色気みたいなのがね。(満月の日)


「そうですか、ではこの辺りが引っ越し先なのですね?」

「はい…」


 自分も見てくれは悪くないと思ってるので、一緒にいてもそんなに違和感ないだろうな~と思っていると、


「では、私の家に来ますか?」

「え?」


 くぁwせdrftgyふじこlp…? お家に誘われた? こんな人から? どう考えてもえっちい想像しかできない自分の脳みそが憎いです!


「何言ってんの!?遂に頭おかしくなっちゃったの?いつものトワを返して!」

「え?何今の声??」


  見渡しても誰もいない…、一体どこから聞こえたの?今の声。こんな場所に人なんて来ると思えないし…。あれ?じゃあこの人は何でこんなところに?


 ってか、一番大きな問題である『家来る』問題が解決してないんですが…


「この街をあまり知らないようなので、コンビニで充電を待つのは難しいでしょう?しかも、見た目からして学生なので、英城大学に入るのでは…と。」


 結構怖いなあ、全部見透かされてるみたいで。実際今個人情報一つばれたけど。え、なんでなんだろう。ともかく返事しないと…


「そ、そうなんです!よくわかりましたね…」

「間違っていたら悪いのですが、もしかして鷲見さんではありませんか?」


 身バレまでしてるの?ネットリテラシーとか学びなおした方がいい系?


「え!?どうしてそれを?」

「顔を見て何となくですね。私があなた様の世話係となったトワです。」

「ええ!父から同い年と聞いていたのですが…」

「そんなに老けて見えますか?」

「いえ!大人っぽくて素敵だな、と…」


 知り合いっていうか、メイドさん?だったっぽい。その顔ずるいでしょ、この多種多様な世の中で惚れる人が続出しちゃうぞ?


「冗談ですよ。恐らく住む場所もあのビルで間違いないようですから、一緒に行きましょうか。」


 それから、マンションへ連れて行ってもっらって、簡単な手続きを済ませた後は、晩御飯をご馳走になった。なんか安心する匂いだなあ、部屋も綺麗でさすがメイドさんって感じがするね。そういえば、トワさんって名前だったか。


 無我夢中でご飯に食らいついていたけど、少し恥ずかしくなったので、気を取り直して自己紹介から。


「改めまして、私の名前は『鷲見 あみ』と申します。今日は本当にお世話になりました。道案内にお昼ごはんまで、これからも迷惑をかけてしまうと思いますが、よろしくお願いします。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

「トワさん、本当に日本語がお上手なんですね!写真ではメイドの服を着ていましたけど、それもあるんですか?」


 あの画像でシコらんほうが無礼やろ。本当にしたのか?ノーコメントでお願いします。


「はい(ぷるぷる)」

「(?)ああ、そういえば案の定うちの父がスカウトしてしまったようで、本当にご迷惑を掛けました!なんでしたっけ、スカウトしたくせに面接させたんでしょう?それに、最後は必死に頼み込んで…。あんな父の会社ですが、どうぞよくして下さい。」


 この人が同期って安心感あるなあ…って思ったんだけどさ、なんか顔赤くない?さっきとのギャップで萌え死にそうなんだけど。気のせいかもじもじしてる感あるし、おかしいなあ、頼れるお姉さんがいつの間にロリになったのやら。


「いえ、元々Vtuberが好きだったので、最も近くでそれを見守れるというのはなかなか体験できるものではありません。マネージャーという立場でないのが残念ですが、私はメイドという職種上、対等という立場が好ましくありませんので、便利屋というのも悪い気はしていませんよ。」


 お、ちょっと直ってきたか?お腹でも痛いのかな。


「では、これから学校でも、よろしくお願いします。」

「もしかして…」


 やっぱりお父さん、言ってなかったっぽいね。一応面接もしたらしいし、身バレになっちゃうのかと思ったのかな?


「はい!私も面接を受けさせてもらっていたんですよ。」

「当日は見かけませんでしたが…?」

「トワさんが面接を受けたのって三日目ですよね?私は初日に受けましたから。ちなみに、私は第一面接から通っていますよ!父からは案の定苦笑いされましたが。」

「それでは仕事についても連絡が取りやすいですね。…もう少し話がしたかったのですが、もう日が暮れてしまいますし部屋に戻っては?(ソワソワ)」


 なにかあったりするかな?でも、言ってみないと分からないよね!


「あのっ‼」

「(ビクッ)」

「あ…大丈夫ですか?」

「お、お構いなくう…」


 おかしいな、私の目の前には涙目で下を向いている、私以外だったら確実に襲ってるであろうロリっ子が居た。多重人格者の方ですか?背も低くなってるような気さえしてくるんですけど、ここまで雰囲気上下してるのに、同級生だということが全く信じられない。


「そうですか。それでですね、さっそく今日からで悪いのですが、荷物が部屋の中に段ボールのままで転がっていて…、お恥ずかしながら全くこういう経験がないので、手伝ってもらえませんか?」

「も、もちろんだいじょぶです…」

「ありがとうございます!…無理はしないでくださいね?」


 本当に急いでるなあ、体調でも悪いんだろうか。大きい荷物を運んでもらっているけど、


「ねえ、おへやどこ?」

「ん!?えっと、奥の部屋ですけど?(おかしいな、遂に私の聴覚と視覚がぶち壊れたかな?)」

「ん、わかった。」


 走り方の効果音がてってってなんだよなあ。声の質がさっきと違って、しっかりしようとしている可愛い妹みたいな感じになってすごい。これも面接で有利に働いたのかな?


「おわった。」

「冗談でしょ?速すぎないですか!?まだ十分くらいしか…、完璧っ!?」


 なんか私の部屋より子供っぽい気もするけど、なんか頑張ってくれたみたいだし、いいか!


「じゃあまたとうこうのひに!」

「は、はい!いろいろご馳走様でしたあ!(意味深)」


 その日は、配信の諸々の準備そっちのけで、一日中合法ロリについて調べていた。


 しかし、次の日御礼を伝えに行くと、最初にあったときのクールな感じに戻っていた。いや、私よりキャラ濃いのかなあ?

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